13.二度目の打ち上げ(ちょっとだけ追放側視点あり)

 グラスホッパー討伐クエスト完了。

 勝利の味を噛み締めながら、俺たちは街へと戻った。

 昨日と同じようにギルド会館へ戻り報酬を貰う。

 金額は一緒だし、下級のクエストだから羽振りもよくはない。

 それでも、報酬を受け取った瞬間は、全員が言葉にならない興奮を感じていた。

 

 その後は、昨日も入った居酒屋へと移動する。

 二度目の打ち上げだ。

 偶然にも同じ席に座って、お酒を片手にミアが音頭をとる。


「かんぱーい!」


『かんぱーい!!』


 木のジョッキをぶつけ合い、ゴクゴクと喉を鳴らしながら一気に飲みほす。

 いつもより美味しく感じるのは気のせいじゃないだろう。

 モヤモヤした気分で飲むよりも、スッキリとやりきった爽快感で飲む方が美味しいに決まっている。

 全員が飲みきった所で、俺は皆に向けて言う。


「今日はありがとうございました」


「シンクさん?」


「俺をパーティーに入れてくれたこと。俺の魔道具を使ってくれたこと。両方の感謝です」


「そんな! お礼を言うのは私たちのほうですよ!」


「そうだよ! 勝てたのだって貰った魔道具のお陰なんだしさ!」


「魔法を撃っても平気だったの……初めてだった」


「みんなもこう言ってますし、今日の勝利はシンクさんのものです!」


「そう言ってもらえると嬉しいですね」


 俺に向けられる心からの賛辞。

 彼女たちの言葉には、最初から心を動かされてばかりだ。

 次も感謝してもらえるように頑張らないとな。


「そういえば、皆さんっていくつなんです?」


「年齢ですか? 私とキリエが十七で、ユイが十六です」


「そこまで離れてなかったんですね」


「シンクさんは?」


「俺は二十歳です」


「やっぱり年上だったんですね! お兄さんって感じがしてたんです」


 ミアはニコニコしながらそう言った。

 女の子にお兄さんと言われると、何だか不思議な優越感があるな。


「そうだ! シンクさんは年上なんですし、私たちにも敬語は使わなくてもいいですよ! 名前も呼び捨てで大丈夫です」


「あたしもそーしてほしいな~ 敬語ってなんかむず痒くて好きじゃないんだよ~」


 ユイも小さく頷いている。

 そういうことならお言葉に甘えようか。


「だったら俺にも敬語はいらないし、呼び捨てで構わないよ」


「良いんですか?」


「もちろん。これから一緒に冒険する仲間なんだしさ」

 

 仲間と言う単語が気に入ったのか、ミアは目を輝かせる。

 そうしてニヤニヤと嬉しそうに頬を緩ませながら、満面の笑みを見せて言う。


「そうだね! 仲間だもんね!」


「だな!」


「うん」


「――ああ」

 

 その後は、改めてよろしくとあいさつをし直した。

 仲間と言う言葉が嬉しかったのは、ミアだけじゃない。

 表情には出さなかったけど、俺も飛び上がりたいくらい嬉しかった。

 生まれて初めて、本当の仲間に出会えたと思えたから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一方その頃。

 同時刻の山岳エリアでは――


「はぁ……はぁ……やっと出られたぞ」


 洞窟から出てきたのは、ダンジョン探索に向かっていたガランたち一行。

 全員が息も絶え絶えで疲労困憊。

 二日間も迷い続け、何とか脱出することが出来たらしい。


「くそっ……こんなことなら――」


 ガランの脳裏に過ぎったのは、シンクの顔だった。

 こんなことなら、彼を追放するんじゃなかった。

 そう一瞬だけ思ってしまったらしい。

 自分の選択を、自分が否定しそうになって、下唇を噛んで苛立つ。


「くそが!」


 近くにあった石を蹴り飛ばす。

 遠くのほうへ飛んでいって、どこかへと消える。


 ミアのパーティーとガランのパーティー。

 どちらも新しい門出を迎えたのは同じ。

 同じなのに、こうも結果が異なるとは、誰も予想できなかっただろうか。


 いいや、どちらも必然。

 なるべくしてなった当たり前の結果だっただろう。

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