12.本当の実力

 俺は彼女たちに合った魔道具を提供した。

 彼女たちは強い。

 欠点さえ補えば、最強にだってなれると思う。

 そう信じて、時間をかけて魔道具を作り上げた。

 受け取ったとき、三人とも喜んでくれていて嬉しかった。

 だけど、それで終わりじゃない。

 俺が言ったことが真実かどうか。

 彼女たち自身で試し、確かめてもらわなくちゃね。


 控え室を出た俺たちは、クエストボードの前に集まる。

 少し出遅れたこともあって、大半のクエストはなくなってしまったようだ。

 そこで俺は提案する。


「受注クエストは昨日と同じにしましょう」


「グラスホッパーの討伐ですか?」


「はい。そっちの方が、昨日との違いが明確にわかると思うので」


「そうですね。そうしましょう!」


 ミアが俺の提案に賛同してくれた。

 他の二人にも視線を送ると、こくりと頷き肯定する。

 これで受けるクエストは決まった。

 そのままギルド会館を出て、草原エリアへと向かう。

 昨日よりちょっぴり緊張しながら、グラスホッパーを探す。

 

 そして――


「いましたね」


 俺が見つけたのは、昨日戦った場所と同じ地点だった。

 数合わせのように五匹が一定の距離にいる。

 

「二匹は近いですし、まとめて倒せそうですね」


「一気に倒すなら、ユイの魔法が一番ですね!」


「ええ」


 視線がユイに集中する。

 彼女は指にはめた指輪を見つめる。


「やれそうですか?」


「うん」


 杖を握り直し、力強く返事をした。

 クルリと二匹のグラスホッパーに身体を向け、杖をかざす。

 彼女に渡した魔道具は、魔力を蓄える指輪。

 すでに二つは満タンまで魔力が溜まっている。

 だから――


「プロミネンス!」


 上級魔法を放っても、彼女の魔力は尽きない。

 燃えさかる炎の柱が二匹を包み焼き尽くす。

 圧倒的火力の前では、どんなモンスターも無力だ。

 今のユイなら、魔王とだって戦えるかもしれないな。


 ユイはほっと安心している。

 彼女の魔法の影響で、他の三匹がこちらに気付いた。

 正面と左右から一匹ずつ。

 それぞれに距離が異なる。


「一番近いのは私がいきます! キリエは左をお願い!」


「任せてよ! 起動!」


 キリエがさっそく魔道具を発動。

 全身を黒いスーツに着替え、ゴーグルごしに敵を捉える。

 スタートダッシュの構えをとれば、ゴーグルに予測距離が算出される。

 自分が行きたい場所がどこなのか。

 必要な力はどれくらいなのか。

 これがあれば一目でわかる。

 

「よーい……どん!」


 神速の脚。

 彼女はいずれそう呼ばれるかもしれない。

 真っ直ぐに飛び出し、グラスホッパーの胴体を貫通する。

 そのすぐ後ろで、彼女は止まっている。


「ホントだ! ちゃんと止まれたぞ!」


 嬉しそうにガッツポーズをしている姿が、俺からもよく見える。


「次は私の番だね!」


 ミアも敵に接近している。

 彼女は剣速が異常すぎて、どんな剣でもすぐに破損させてしまっていた。

 あれほどの剣技を持ちながら、合った剣を見つけられずにいたんだ。

 でも、それも今日まで――


「いっくよぉー!」


 刃が再生する剣、リカバリーブレイド。

 決して壊れない剣さえあれば、彼女は世界最強の剣士にだってなれる。

 一瞬のうちに脚と羽を切断し、胴体をついてトドメをさす。

 当たり前みたいな勝利を手にして、彼女は己の強さを噛み締める。


 そして――


「シンクさん! 最後は決めちゃってください!」


 ミアが手を振りながら叫んだ。

 三人が俺のほうへ目を向け、期待を送る。


「了解」


 期待に応えよう。

 俺は弓と矢を取り出し、残る一匹へ狙いを定める。

 強靭な脚力を使って、グラスホッパーは大きくジャンプ。

 昨日と同じように、俺のいる場所へ落下してこようとする。


「昨日とは違う矢だ」


 引き絞り、矢を放つ。

 昨日のように連射はしない。

 ただ、この矢は――


「爆ぜろ」


 接触と同時に爆発する。

 上級魔法と同規模の爆発で、グラスホッパーは木っ端微塵となる。

 砕けた身体の一部と灰が降る。


「これで完全勝利だ」

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