11.失って気付くこと(追放側視点)

 ダンジョンを別の言葉に変換すると迷宮。

 その名の通り、中は入り組んだ迷路になっている。

 最深部にたどり着けるルートは基本的に一つだけとされ、他は強力なモンスターが待ち構えていることが多い。

 また、ダンジョン内には無数のトラップが設置されており、移動中は注意を払う必要がある。


「あたしに任せて! トラップなんて簡単に回避できるわ!」


 そう豪語するティアラが先導している。

 実際、潜ってから現在まで一度もトラップには引っかかっていない。

 自慢げな表情を浮かべ、シンクを追放したときのことを思い出す。


 何が――「俺がやらなきゃ誰がやれるんだ」よ。

 あんたなんていなくても、これくらいあたし一人で十分なのよ。


「ざまぁみなさい」


 小さな声で呟く。

 その直後にティアラは、何かに気付いて立ち止まる。


「どうした?」


「……いいえ、何でもないわ。たぶん気のせいよ」


「ん? そうか」


 ガランの質問にそう答えたティアラ。

 何かを感じ取ったのは明らかだったが、質問したガランも細かく言及はしなかった。

 そうして先へ進んでいくと、ティアラの表情が曇っていく。

 左右の分かれ道になった場所で止まり、壁を触れながら焦る。


「ちょっとこれ……嘘でしょ? どういうことよ」


「何だ? さっきからどうしたんだ」


 ガランが尋ねると、ティアラは額から汗を流しながら答える。


「あたしたち……さっきから同じ場所をグルグル回ってるみたいなのよ」


「はっ? それってつまり……迷ったってことか?」


 ガランが大きな声で叫ぶように言い、音が壁に反射して木霊する。

 反射で音は増幅され、耳を塞ぐほどに響く。


「うるさいわね!」


「何やってんだよ、ティアラ! ちゃんと誘導しろよ!」


「やってたわよ! やってたけど、知らないうちに迷ってたんじゃない!」


「二人とも落ち着いてくれ。こんな場所で騒ぐものじゃない」


 騒ぐ二人を宥めようと、ユナンが声をかけた。

 しかしこれが逆効果となり、ガランは声を荒げて言う。


「俺に指図するな! こいつの所為で迷ったんだぞ? お前も冷静ぶってないで何かしたらどうだ?」


 ガランの言葉に苛立つユナン。

 ここで冷静さを失い、頭に血が上ってしまう。


「騒いでいるだけのお前に言われたくないな」


「何だとぉ?」


「お、落ち着いてください!」


 ミレイナが必死に収めようとするが、ヒートアップして聞こえていない。

 ドーロは一人でオロオロしている。

 

 ダンジョン探索で最も重要なこと。

 それは迷わないことだ。

 ダンジョン内で迷えば、帰ることすら出来なくなってしまう。

 そうならないため、来た道に目印を残したり、様々な工夫をするものだ。


 しかし、彼らはそれを怠っていた。

 普段はシンクがやっていたことだった。

 彼に任せっきりだった所為で、当たり前のことすら気付けない。

 挙句の果てにダンジョン内で仲間割れを起こしている。


「くそっ、もう良い! さっさと戻るぞ!」


「ちょっと! そっちは駄目よ!」


「は? こっちから来たんだぞ? 戻れば帰れるだろうが!」


「違うわよ! そこには――」


 ガランが踏んだ地面が、がしゃこんと音をたてて沈む。

 制止を聞かなかった彼は、トラップのスイッチを押してしまった。

 

 次の瞬間、彼らの立っていた床がすっぽりと抜ける。


「うわああああああああああああ」


 そのまま真っ逆さま。

 トラップの探索や対処も、いつもはシンクがやっていた。

 彼の鑑定眼は、様々な仕掛けすら見抜くことが出来る。

 それによって予めトラップに気付き、近づかないように目印をつけたり、封鎖したりしていた。

 ティアラは自信たっぷりに誇っていたけど、配慮と言う面で足りていなかった。


 落下した五人は、数十メートル下で地面とぶつかる。

 直前にユナンが風の魔法を使ったことで、直接ぶつかることだけは避けられた。

 しかし、トラップは終わっていない。


「ご、ゴーレム!?」


 待っていたのは広い空間と巨大ゴーレム。

 トラップにかかった者を粉砕する石の巨人が、彼らに襲い掛かる。


「戦うぞ!」


 ガランの指示で陣形を作る。

 くさっても彼らは上級パーティー。

 実力は備わっているから、戦えないわけじゃない。


「こいつかてーな! 弱点とかないのか!」


「知らないわよそんなの! 自分で見つけなさい!」


 ここでもシンク不在の影響が出ている。

 彼がいた頃は、鑑定眼を通して敵の弱点を把握し、強力な敵も楽に倒せていた。

 このゴーレムにも核があり、それを破壊すれば倒せる。

 だが、見抜く力を失った彼らは、力押しで戦うしかない。

 

 結果的に一時間の死闘の末、何とか勝利をおさめた。

 戦いを経て、時間を経過させて気付いていく。

 シンクがこれまで、どうやってパーティーを支えていたのかと言うことを。

 認めたくない気持ちと同じくらい身にしみている。


 ちなみに……

 彼らがこのダンジョンから脱出できたのは、これより二日後だったという。

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