8.また明日と言われたら
振るのが速すぎて剣が砕けてしまう剣士。
最速だけど自分で制御できなくて、風圧で服が破ける槍使い。
上級魔法を扱えるけど、魔力量が不足していて一発しか撃てない魔法使い。
三者三様。
個性豊かな彼女たちは、思っていた以上に曲者ぞろいだった。
俺はしばらく言葉をなくして立ち尽くす。
すると、視界の端っこから新たなグラスホッパー二匹が接近してくる。
「っといけない! まだクエストは終わってなかった!」
我に返った俺は、接近するグラスホッパーに目を向ける。
遠くから、全裸になって局部を隠しながら戻ってくるキリエと、砕けた剣を大事そうに抱えているミアが見える。
とりあえず二人とも無事みたいだ。
後は――
「こいつらを倒して終わりだな」
俺は手製のマジックバッグから弓と矢筒を取り出す。
どちらも昨晩に魔道具へ改造済みだ。
この弓には、一発の矢を任意の数に増やして連射する能力を付与されている。
十発でも百発でも、魔力さえ続けば連射できる。
加えて矢には防御貫通の効果を付与されているから、硬い鉱物でも貫通できる。
よーく狙いを定める。
弓は昔からよく使っていたし、自慢じゃないけど得意な方だ。
連射も出来るとなれば外すことはありえない。
俺は矢を射る。
矢は三十連射され、グラスホッパーの一体を貫く。
三十発も受ければ倒すのも容易だ。
一匹が倒れたことで、もう一匹がこちらへ注意を向ける。
強靭な脚力による大ジャンプ。
着地地点は当然、俺と動けないユイがいる場所だ。
「させるか!」
もう一発矢を射る。
もちろん一発ではなく、今度は五十発の連射。
足と羽を先に貫通させもぎ取り、残りの矢で突進力を殺ぐ。
グラスホッパーの死体は、重力にまかせて落下していく。
丁度俺たちの目の前で。
モンスターは、体内にコアと呼ばれている結晶が埋まっている。
討伐の確認は、コアを剥ぎ取り、ギルドに提出することで行っている。
コアの場所はモンスターによって異なるけど、大体が人間でいう心臓の位置だ。
「ふぅ……」
変な汗をかいたが、何とか無事にクエストを終えることが出来たようだ。
この先の不安は募るばかりだけど……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ギルド会館近くの居酒屋。
ワイワイガヤガヤと騒がしい中で、俺たちの姿もあった。
「かんぱーい!」
ミアの音頭でお酒の入った木のジョッキを交し合う。
俺の加入と、クエスト達成を祝した打ち上げだ。
「シンクさん凄いですね! あんなに強いとは思いませんでしたよ~」
「いえ、あれくらいは……」
ミアはお酒を飲みながら俺を褒めてくれる。
褒めてもらえるなんて珍しいし、嬉しいことのはずなのに……素直に喜べない。
胸に引っかかっている疑問があって、そっちを解消したいと思う。
「あの~ 皆さんは普段からあんな感じなんですか?」
「へっ? あんな感じというと?」
「その……剣が砕けたり、止まれなかったり、魔力切れになったり」
「あぁ~ あはははっ、お恥ずかしながらそうですね」
ミアは頭の後ろに手を当て、照れながらそう答えた。
詳しく聞いてみると、まともにクエストを達成できたのも、今回が初めてらしい。
お、おう……
というのが、それを聞いたときに出た言葉だった。
正直、どう反応して良いかわからない。
彼女たちは決して弱いわけではなく、長所はずば抜けたものを持っている。
だからこそ、長所が活かしきれていないと感じた。
この日の打ち上げは、中途半端な雰囲気のまま終わる。
帰り際、反対方向へ向かう俺に手を振って――
「また明日ぁー」
と声をかけてくれた。
俺は一礼して、宿屋へと戻る。
自分の部屋に入ってから、ベッドに座って無言の時間。
それが二時間くらい続いた。
頭の中には今日の出来事と、彼女たちのことが巡っている。
「また明日……か」
色々な考えが浮かぶ中。
俺は一つに絞って立ち上がる。
それから宿屋を走り出て、アンディー道具屋へと向かった。
時間は夜の零時半。
すでに閉店しているが、お構いなしに戸を叩く。
「アンディーさん!」
「んぁ~ 何だシンク……こんな夜中に」
「あの……えっと、お願いがあるんです!」
真剣な表情をする俺を見て、寝ぼけていたアンディーの目が開く。
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