7.訳有りだったようです
クエスト受注を済ませ、俺たちは街の外へと出る。
俺たちが拠点にしているグラニデの街は、この国でも五本の指に入るほど大きな街だ。
冒険者人口も多く、遠方から移住してくる者もいる。
街は高い壁で囲われていて、四方に外へ出るための門がある。
門の先は各エリアに繋がっている。
東門を出れば森林エリア。
西門を出れば草原エリア。
南門を出れば海岸エリア。
北門を出れば山岳エリア。
それぞれ特徴の異なるエリアで、生息する動物やモンスターも違う。
俺たちが向かうのは草原エリア。
西門を潜れば、すぐに広大な草原が見えてくる。
見渡す限りの緑と、吹き抜ける風の気持ちよさを感じながら、俺たちは一本道を進んでいく。
しばらく道なりに進めば、モンスター出現区域に突入する。
「いたぞ!」
最初に見つけたのは槍使いのキリエだった。
彼女が指差す方向に目を向けると、大きな緑色のバッタが三匹いる。
グラスホッパーの体長は五メートル前後。
大きさに気圧されがちだが、実際はそこまで強力なモンスターじゃない。
唯一の脅威は、高く飛び跳ねるジャンプ力だ。
距離を一瞬でつめられると、さすがに恐怖を感じるだろう。
とは言え、羽はあっても重すぎて飛べないし、色々と可哀想なモンスターでもある。
「よーし! 私が先陣をきるから、皆はあとに続いてね!」
気付かれないギリギリの距離まで接近し、リーダーのミアが剣を抜く。
本当なら作戦を考えるべきだけど、即席同然のパーティーだし、連携なんてとれるはずはない。
何度も言うように、強力なモンスターでもないから大丈夫だろうけど。
「いってきまーす!」
そうして意気揚々とミアが飛び出す。
一直線にグラスホッパーの一匹へ向かっていく。
ミアの職は剣士。
文字通り、剣で戦う職業だ。
十メートル程度まで接近すると、グラスホッパーもミアに気付く。
向きを変え、足に力を込めて大ジャンプ。
ミアは急ブレーキをかけ、後方に飛んで回避する。
「そこだ!」
そのまま連撃。
目にも留まらぬ速さで剣を振りぬき、グラスホッパー自慢の足を斬り裂く。
「おぉー」
あまりの速さに眼福する。
これほど凄まじい速さで剣を振る剣士は、これまで見たことがない。
今の動作だけでもわかるけど、彼女の実力は相当なものだ。
これは彼女一人でクエストが終わってしまいそうだな。
そう思った直後だった。
「とどめ!」
グラスホッパーの頭部に刃を振るう。
見事に斬り裂き、一匹は力尽きて倒れこむ。
パキンッ!
それと同時に金属が砕ける音が聞こえてきた。
「ああー! 剣が折れちゃったよぉ~」
「えっ……」
ミアの持っている剣の刃が折れている。
いや、折れたというより一瞬で粉々に砕け散った。
突然のことに唖然としていると、隣にいたキリエが呆れた顔で呟く。
「またかー」
「また!? またってどういうことですか?」
「ミアの剣が速すぎて、数回振るといっつもあんな感じに壊れるんだよ」
嘘でしょ?
速すぎて剣の刃がもたないってこと?
そんな話聞いたことないけど……目の前で起きてることだから、信じないわけにもいかない。
「助けてー!」
はっと気付いて目を向けると、砕けた剣を握りしめ、ミアがグラスホッパーから逃げ回っていた。
最初の威勢はどこへやら。
情けない声と表情を見せている。
「助けないと!」
「しゃーないな~ あたしに任せてくれ」
そう言ってキリエが前に出る。
背中の槍を両手で持ち、さながらスタートダッシュを決めるランナーのような体勢をとる。
「よーい……どん!」
瞬間、力強く踏み切った地面が抉れ、風を斬り裂くように消える。
キリエは、まるで彗星のように一直線に駆け抜けた。
こちらも目で追える速さじゃない。
今まで会った槍手の中で、彼女は間違いなく最速だ。
だけど……
「ど、どこまで行ったんだ!」
駆け出した彼女は遥か彼方。
もはや肉眼では見えない距離まで行ってしまった。
一匹は貫いて倒しているようだけど、そこまで移動する必要はなかっただろう。
困惑していると、後ろからユイがボソリと言う。
「キリエは速いけど……自分で止まれないから」
「えっ、止まれない?」
ユイはこくりと頷き、さらに衝撃の事実を口にする。
「それと……風圧に耐えられなくて服が全部脱げちゃう」
「ふっ――」
何でだよ!
っと心の中でツッコミを入れる。
色々と一気に起こりすぎて、俺の頭はパニック状態だ。
とはいっても、グラスホッパーは残り一匹いる。
現在もミアが追いかけられている最中だ。
「任せて」
最後に残ったユイが、大きな杖を前にかざす。
赤い魔法陣が展開され、彼女の魔力が高まっていく感じがする。
「プロミネンス」
彼女が唱えると魔法陣が巨大化。
そこから炎の柱が発生し、グラスホッパーを包む。
プロミネンスは上級魔法の一つ。
それを無詠唱で発動させられるなんて、ユイの魔法センスは尋常じゃないようだ。
しかし、ここまでの流れがある。
もしかして彼女も……
「良かった。君は大丈夫そう……ユイ?」
「すいません。魔力切れで動けないです」
「……そうきたか」
ユイは鼻血を出しながら棒立ちで固まっていた。
あとから聞いた話だと、彼女は上級魔法しか使えないが、魔力量が著しく足りていないので、一発撃つと魔力切れを起こしてしまうらしい。
俺は唖然として立ち尽くす。
どうやらここは、訳有りしかいない変わったパーティーだったようだ。
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