6.採用されました

「えっと、改めまして。パーティー加入希望のシンクです」


 三人が同じテーブルの席につき、改まった自己紹介をしている。

 正面に向かい合っているリーダーのミアが、ニッコリと笑って言う。


「シンクさんですね! 今日は私たちのパーティーに応募ありがとうございます! これからよろしくお願いしますね!」


「はい。こちらこそ――ん?」


「どうかされましたか?」


「いえ、すいません。何だか、もう採用が決まっているような口ぶりだったので」


「そのつもりでしたけど……」


「えっ……」


 驚きで思わず声と表情に出してしまった。

 採用までの道のりが険しいものだと思ってたから、こうもあっさりとしているなんて予想外だったんだ。

 しかも、ただ自己紹介して顔を合わせただけだぞ?


「駄目……でしょうか?」


「いやいや! 駄目とかじゃないですよ! むしろ嬉しいんですけど、まだ何も聞かれていないので、俺でいいのかなーと」


「もちろんですよ! 私たちと一緒に冒険がしたいと思ってくれるなら、どんな人でも大歓迎です!」


 ミアは自分の胸に手をあて、堂々とそう言いきった。

 表情や口調のお陰か、それが嘘だとは微塵も思えない。

 本心で言ってくれていると、そう思えたから嬉しかった。


「ありがとうございます」


 だから、自然に感謝の言葉がこぼれていた。

 まだ何も始まっていないのに、俺の心は一杯になりそうだよ。


 ミアがはっと思い出したように言う。


「あーでもでも! 職業とか、何が得意かは教えてもらえると嬉しいです!」


「あっ、はい。えっと……決まった職業はありません。大抵の武器は扱えますけど、一番得意なのは弓だと思います。あと魔法は使えません」


「えぇ! どんな武器でも使えるんですか?」


「え、あ、まぁ一応は……人並みでしかありませんが」


「それって十分凄いですよ! シンクさんは器用な方なんですね」


 ミアはニコニコしながらそう言ってくれた。

 彼女の笑顔が眩しすぎて、俺は日差しもないのに目を細める。

 

 話した内容に嘘はない。

 ただ、鑑定眼しか持っていなかったことや、魔道具作成については話さなかった。

 ちょっと見栄を張りたかったというのもあるけど、一番はそこで判断してほしくなかったからだ。

 しっかりと働いて、役に立つ奴だって証明したい。

 こんな風に真っ直ぐ褒めてくれる彼女に、格好良いところを見せたいと思った。


「足りない所は多々あると思いますが、精一杯頑張ります! これからよろしくお願いします!」


「こちらこそ。一緒に頑張りましょう!」


「よろしくな!」


「よろしく」


 そんな感じに話がまとまった後、せっかくだからとクエストを受けることに。

 すでに正午を過ぎているから、目ぼしいクエストは残っていない。

 俺たちはクエストボードの前に集まり、適当な難易度の内容を探す。


「あっ! 良かった~ まだ残ってました」


 ミアが見つけたクエストを確認する。

 草原エリアでの討伐クエスト。

 討伐対象は、「グラスホッパー」という巨大バッタ五匹。

 今みたいな暖かい時期になると、草原に大量繁殖するやっかいなモンスターだ。

 クエスト難易度はD。

 下級パーティーがよく受ける比較的難易度の低いクエストだ。


「よくこれを受けてるんですよ。シンクさんはどう思いますか?」


「皆さんがよければ、俺は大丈夫ですよ」


 この時間から受けるクエストなら、実際バッチリだと思う。

 グラスホッパー程度なら、俺でも頑張れば一人で倒せるし、パーティーで行けばすぐに終わるだろう。

 互いの実力を確認し合うにはもってこいの相手だ。


「じゃあ決まりですね! さっそく準備しましょう!」


「おう!」


「うん」


 三人とも気合を入れるように声に出した。

 俺もしっかりと働いて、自分をアピールしよう。

 それにちょうどいい機会だ。

 作った魔道具の性能もチェックできるぞ。

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