3.貰った本は魔道書でした

 道具屋を後にした俺は、とぼとぼ宿屋へ戻った。

 カウンターで見た時計は正午を回っていて、今は丁度お昼時だ。

 部屋を借りている宿屋の一階は飲食店になっていて、戻ったときには大賑わい。

 俺は隠れるように階段へ移動して、自分の部屋に入り込む。

 荷物を適当に投げ捨て、ベッドへ腰を降ろした俺は、大きなため息と一緒に考える。


「はぁ~ これからどうしよう……」


 パーティーを追放されたことで、安定した収入源を失ってしまった。

 蓄えは一応あるけど、何ヶ月もは耐えられないだろう。

 鑑定眼しか持っていない俺は、新しくパーティーを探すのも一苦労だ。

 明日から探したとして、受け入れてくれるパーティーがあるかどうか……

 この街は長いし、俺のことを知っている冒険者は多い。

 最悪の場合、別の街に移住する必要があるかもしれないな。


「いや、移住してもすぐバレるか。あーもう! どうすればいいんだよぉ……」


 バタンとベッドへ倒れこむ。

 いろんなことを考えてみたが、結局まとまりはしない。

 精神的にも身体的にも疲れはピークに達していて、気付けばそのまま寝入っていた。


 目が覚めたのは夕方。

 こんな時間に眠ったのなんて、思い返しても初めてかもしれない。

 目覚めはそこまで悪くなかった。

 でも、今朝の出来事を思い出せば、一気にゲンナリしてしまう。


「あっ、そういえば本……」


 ふと、悲劇とは別のことを思い出した。

 投げ捨てたカバンに目を向けると、道具屋で貰った本が落ちている。

 俺は徐に立ち上がり、本を拾ってベッドに腰掛け直す。


「よいしょっと。さて、どうするかな」


 改めてみても古い本だ。

 ページを捲っても白紙は変わらない。

 色んな角度から観察したけど、見た目からは何もわからない。

 こういうときこそ、俺の唯一の長所が役立つんだ。


 鑑定眼――発動!


 両目が熱を持つ。

 このスキルを発動中は、俺の目が青く光って見えるらしい。

 鏡で見て確認したことがあるけど、ちょっと格好良かったな。


 そんなことはどうでもよくて、こっちを見よう。

 視線を本へと向ける。

 すると、本の情報がスキルを通して入り込んでくる。


「う~んと、何々~」


 白紙だったページに文字が浮かび上がる。

 びっしりと書かれた文字と、時々魔法陣も書かれている。

 見たことのない文字だ。

 そのままじゃ読むことはできないけど、限界レベルの鑑定眼を嘗めてはいけない。

 知らない文字でも、このスキルを通してみれば理解できるんだ。


 そうして、俺はこの本を読んだ。


「こ、これって……魔道書じゃないか!」


 読み進めていくうちに、本の正体が判明した。

 驚くべきことに、これは魔道書の一冊だったらしい。

 魔道書とは、偉大な先人が自身の魔法を世に残すため、特殊な文字を用いて書かれた書物。

 選ばれた者が持つことで、魔道書に書かれた魔法を扱うことが出来ると聞く。


 『魔工の書』って書いてあるな。

 まだ序盤しか読んでいないけど、これは魔道具作成に関することが書かれているらしい。

 魔道具は、魔力を流すことで起動する特殊な道具で、効果は付与された魔法によって様々。

 道具屋にもいろいろ置いてあるけど、量産できる簡単な物だけだ。

 複雑な魔道具は、優秀な魔法使いでも限られた人間にしか作れない。

 加えて現代では、魔道具作成の技術は大半が失われてしまっていて、大昔に作られた物はかなりの高値がつくようだ。

 まさにロストテクノロジーの一つ。

 

「凄いな……ここに書いてあることって、学者たちでも知らないことばっかりだぞ」


 読み進めていくうちに止まらなくなって、どんどんページを捲っていく。

 魔道具に関する知識なんて、一般に出回っている程度しか知らなかった。

 だけど、これを読んでいれば全てが理解できる。

 鑑定眼のお陰だろう。

 ページを捲る度にワクワクする。

 

 一時間後――


 最後のページを捲る。

 これで全ページを読み終わり、満足して本を閉じる。

 すると――


「うっ……何だこれ!」


 頭が急に熱くなって、異様な痛みが走った。

 生まれて初めての感覚に戸惑ったが、痛みは一瞬で治まった。

 しばらくぼーっとしていると、あることに気付く。


「魔道書を読めたってことは、もしかして――」


 俺は一枚のカードをポケットから取り出す。

 そこには身体検査でわかった項目が書いてあって、現在の自分の情報がリアルタイムで更新される。

 多少の期待を胸に、項目の一つに目を向ける。


 魔法適性:該当なし

 保有スキル:鑑定眼Lv.10 魔道具作成Lv.10

 隠れスキル:該当なし


「ふ、増えてる!」


 俺は驚きのあまり、ベッドからずり落ちた。

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