第4話 いざ実家へ!
気がつくと、今日は金曜日。
明日には、とうとう家の実家に挨拶に行く。
あっという間に、就業時間も終わりマンションで課長を待つ。
明日だと思うと、なんだかドキドキする。
今まで、一度も会ってくれなかった父親が今回はすんなり了承したのも気になる。
父に負けるもんかという気持ちもあったのか、気がつくとニンニクたっぷりの
肉野菜炒めを作っていた。
「お、上手そうな匂いだな。」
「あ、おかえりなさい。」
「ただいま」
ダイニングテーブルに夕飯を並べ食べ始めると
「今日は、ニンニクが結構入ってるな。
さては、俺に頑張ってほしいのか?」
「うん、頑張ってほしいかも・・・」
「よし!心がそう言うんなら頑張るからな。」
そう言って、満面の笑みを浮かべる。
ホント、明日は頑張ってねと私も笑みをかえす。
晩酌の時間も終わり、二人でベットに入ると、課長ががばっと覆い被さって来た。
「ご期待通り、頑張るからな。
夜は長いぞ!」
「え゛・・・・・。」
課長はパパっとスエットを脱ぐと、私のパジャマもアッサリ脱がし深いキス
がされる。
“そっちの頑張りじゃないんだってば!!?”
私の思いは、深いキスと身体中を弄る指に翻弄され声にならなかった。
お陰で、朝目覚めた時は今までになく身体が怠く、おまけにシャワーを浴びに
行き鏡を見れば、見たこともないくらいのキスマーク。
“課長って・・・やりすぎだし・・・”
「ハ~・・・。」
思わずため息が漏れた。
「タカちゃん、起きて!」
未だ眠っている課長を起こしにかかる、実家に向かう新幹線の時間まで二時間を
切っている。
「今日は、私の実家に行くんでしょ!
早く起きて!!」
まだ眠そうな目を擦りながら、ダラダラと起き上がる。
そうだよね、まだ眠いよね・・・。
だって、寝てから三時間しか経ってない。
私だって眠い!だが、そうも言ってられない。
今日は決戦の日だ!?
いつもは課長に流されっぱなしだが、今日は、そういう訳にはいかないのだ。
私だって、今日こそ結婚を決めたい!
素っ裸の課長の手を引っ張り、無理やりバスルームに放り込むと、朝食の準備に
取り掛かった。
いつもとは打って変わってグダグダする課長を、いつもよりテンション高い私が
尻を叩き、なんとか新幹線の乗車時間に間に合った。
「タカちゃん、行きたくないの?」
「何か緊張するだろ?」
「先週は私が頑張ったんだから、今日はタカちゃんがバシっと決めてよ。」
「俺、腹が痛くなってきた気がする・・・。」
これがあの課長なのか・・・。
仕事とは真逆の態度に、若干イライラが増してくる。
でも、ここは私が大人になろう。
「今日上手くいったら、帰って来てからいっぱいサービスしちゃう。
タカちゃんの言う事なんでも聞くから、頑張って!」
笑顔つきで課長の肩を軽く叩く。
「ホントに何でも言う事聞くんだな?」
やけに言葉を強調する課長に軽くビクつきながらも、コクコクと首を縦にふる。
「分かった!俺、頑張る!頑固親父ドンとこい!」
急にテンション高くなった課長に引きつつも、取りあえず胸を撫でおろした。
新幹線を降りると、レンタカーを借り実家まで30分の道を走る。
車の外には長閑な風景が広がっている。
田んぼに畑、山、川、牧場・・・。
「凄いな!俺、こんな田舎、初めて来たぞ!」
「それは良かったですね。空気も美味しいですよ。」
少し棒読みになりながらも、課長の声に応えていく。
「あ、あの黒い屋根の家が家です。」
「おい、俺んちよりデカくないか?」
「田舎は土地代なんてあってないようなものだから、家なんて都会の半分以下
で建つよ。
家なんて、父親が大工なので自分で建てたからね~。
かなり、安くできてると思うよ。」
「そうなのか?」
「うん。」
車は家の前の駐車場へと入って止まる。
「タカちゃん、行くよ!」
「お、おう!」
「ただいま。」「は~い。」
玄関を開けて中に入るとのんびりとした母の声が聞こえた。
「こっちよ~。」
声は玄関の横にある座敷から聞こえてくる。
「すげ~な、玄関だけで一部屋作れそうだな。」
課長は広い玄関に目をむいている。
「早く靴脱いで、行くよ!」
「はいはい。」
座敷に向かうと、いつもの場所でお茶を啜る両親がいた。
二人で座敷に入り、取りあえず母にお土産のお菓子を渡す。
広い座卓を挟み、両親と私達で向かい合わせに座ると父が口を開いた。
「で、なんだって?」
「えっと、今お付き合いしている
私達、結婚したいと思っていて・・・」
どうやら私のトラウマと父への恐怖は強かったらしい、段々声が小さく
なっていく。
そんな私の様子を見てか課長が声を上げた。
「はじめまして、心さんと同じ職場で課長をしております、久宝穂高です。
今日は、心さんとの結婚の了承を得るために、こちらに伺わせて頂きました。
心さんと、結婚させてください。」
仕事している時の課長のように、背筋を伸ばしハッキリと口にする堂々とした
姿に、嬉しさが込み上げてくる。
「久宝さん・・分かった、良いだろう。
心を嫁にやろう。」
「ありがとうございます。一生大事にします。」
“嘘!ホント!?OKなの?”
あまりにもすんなり事が運び、拍子抜けするほどだ。
「今日は泊っていくんだろ?
母さん、酒の用意をしてくれ。」
「心、手伝ってくれる?」
「う、うん。」
まだ、驚きに頭がついていかない。
キッチンにいき、父と課長に聞こえないように母に声を掛けた。
「お母さん、私・・結婚していいんだよね。
何で今回はこんなにすんなりいったの?」
母は私を不思議なものを見るような目で見た後、「プッ!ハハハ」
「何がおかしいのよ!」
「まるで、すんなりいったら悪いみたいに言うんだもん。
上手くいったんだから、いいじゃない。」
まあ、確かにそうなんだけど・・・
「まぁ~、本当に縁がある人とは不思議と何でもすんなりいくものよ。
タイミングも良かったのかもね。」
「縁?タイミング?」
「この間、隣の心の同級生の
のよ。
その時に、隣の奥さんに心ちゃんはまだですかって、このままだと行き遅れに
なりますよって言われたんだって。
そしたら、今回の話じゃない。
お父さんも考えたんじゃないの?」
「そ、そうなんだ・・・。」
どうやら今回はタイミングが良かったということか。
「ほら、今までは心が可愛くて、お嫁さんに出したくないっていう
父親の唯の我儘だから・・・。」
「そ、そうなの!?」
そして、いろんな事が腑に落ちてくる。
父親の我儘で、私は彼氏と別れる羽目になっていたのか・・・。
キッチンから見える先には、父と課長が笑いながら話す姿。
タイミングかぁ・・・。
結局、父親の予想以上の上機嫌と、緊張が解けてホッとした課長は
その勢いのまま酒を飲みかわす。
そして、結婚の話も勢いをつけていく。
「穂高君、結婚のためにご両親と会いたいんだが・・・。」
「はい、今確認してみますか?」
スマホをポケットから取り出し、そのままご両親へ
「お義父さん、来週の土曜日はどうですか?」
「いいぞ!折角だから、私達がそちらに旅行がてら行く。」
「大丈夫だそうです。
では、来週の土曜日に両家の顔合わせということで」
どうやら、来週の予定も決まったらしい。
本当にトントン拍子で進んでいくな・・・。
夜九時、まだそんなに遅くもない時間に関わらず、昼過ぎから飲んでいた父と
課長は、ベロンベロンに酔っ払い座卓に突っ伏して寝ていた。
その様子を母が見ながら
「よっぽど嬉しかったのね。
いつかは、心の旦那さんになる人とお酒を飲みたいっていうのが
夢だったみたいだから・・・。」
しみじみとした口調で言った母の言葉に、私の涙腺もちょっと緩みがちだ。
心の中で“お父さん、ありがとう”と声にならない気持ちを伝えた。
次の日、起きた二人は二日酔いに苦しんでいたが、これもいつか笑い話に
なるのだろうと思えた。
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