第2話 変化

仕事も生活も何事もなく過ぎていき金曜日になった。


こうしてみると、元カレの事は何も気にならない。


私って、彼のこと本当は好きでもなかったのかな・・・。


PCに頼まれた資料を作りながら、何となく考える。


今までの恋愛を振り返っても、別れて泣いたことはあっても意外と次の日には

ケロリとしていることがほとんどだった。


実は、恋愛した気分になってただけなのかなぁ。



でも・・・結婚はしてみたい。




そんなことを考えている内に、あっという間に退社時間となった。


資料も出来たし、よし帰るかと席から立ち上がると同時に、久宝課長から声が

掛けられた。


「綾瀬、すまないがこれだけ頼めないか?」


渡されたものを見ると、月曜朝一の営業会議資料。


「急に取引先への納入金額の訂正が出てしまった。

 今日中に打ち出して、コピーまでできないか?」


いつもなら、断っていたかもしれないが、フリーとなった今は家に帰っても特に

やることもない。


“たまには、いいか”


「大丈夫です。何部打ち出せばいいですか?」


「助かる。30部、頼む。」


「はい、分かりました。」


私は一度上げた腰を、また席に下ろしPCに向き合った。



集中して資料の訂正分を済ませ、コピーを取り終わり、部数分用意した時には

退社時間から2時間が経過していた。


「ふ~、終わった!」


全てを終え伸びをすると、「お疲れ」と声がかかった。


誰もいないと思っていたのに、残っている人がいたのかとビクッと肩が上がった。


「あ、久宝課長。いらしたんですか?」


「勿論、頼んでおいて自分だけ帰るわけにはいかないだろ。

 終わったんなら何か食べにいくか?」


「え、いいんですか?

 勿論、久宝課長の奢りですよね。」


「ああ、じゃあ美味い所に連れていってやる、行くぞ!」


「はい!」


何もないはずの金曜日が、課長の奢りで食べに行く予定ができた。


こういうのも、たまには良いのかもしれない。



営業部のドアを出て行こうとする課長の後を慌てて追いかけた。


課長はスタスタと私の前を歩く、身長180㎝は超えていると思われる課長の歩幅

は広く、私は小走り気味でなんとかついて行くと、駐車場に入っていく。


「久宝課長は車なんですか?」


「ああ、マイカー通勤。マンションから会社まで遠くはないんだが何となく電車

 より車が楽だからな。

 綾瀬は電車だろ、毎日大変だろ。」


「まあ、慣れれば大したことないですよ。

 食事の場所まで車ですか?」


「いや、俺のマンションの近くの店だから、マンションの駐車場に停めてから

 行こうと思うが、いいか?」


「いいですけど・・・。」


「じゃあ、行くぞ」


課長の車は、私でも知ってる有名外車だった。


「久宝課長って、良い車に乗ってるんですね。」


「まぁ、独身だし車もそこそこ好きだし、このくらいしか金の使い道がないからな。

 ほら、乗れ!」


そう言われて乗り込んだ助手席は、高級外車だけあって革張りの乗り心地のいい

ものだった。


車の中でも、意外と話は尽きない。


流石に二年も一緒に仕事をしてきてるだけあって、引っ込み思案な性格はなりを

潜めてしまったのと、課長のイケボもあってか心地良さまで感じていた。



「あ、でも、久宝課長、助手席は課長の彼女に悪かったですよね。」


「あ?俺、今は彼女なんていないけど?」


「そうなんですか?意外です。」


「そうか?課長の職についてから仕事が忙しくて、それどころじゃねーよ。」


ちょっと不貞腐れたような普段見ない課長の顔に笑ってしまう。


「おい、笑うな!

 綾瀬こそ、彼氏は大丈夫なのか?」


「え、私も今フリーなので大丈夫ですよ。ご心配なく。」


「そうなのか?綾瀬こそ、居そうなのにな。」


「いたら残業なんてしてませんよ。」


「そうか?」


「そうです。」


今度は私の不貞腐れた顔を見て、課長が笑う。


車に乗って10分程で課長のマンションに到着した。


“ここって、テレビで宣伝してた高級マンション!

 課長位になると、給料も良いのか・・・。”


車といい、マンションといい、自分との違いを感じさせられる。


「降りるぞ!」


「は、はい!」


車から降りて、徒歩3分程で課長オススメのお店についた。


そこは、お洒落なフレンチレストランだった。


「綾瀬、好きなものを頼んでいいぞ!」


「は、はい。」


好きなものと言われても・・・・。


「久宝課長は何にするんですか?」


「俺はこれ、軽めのコースかな。」


「じゃあ、私も同じもので・・・。」


「そうか、じゃあ頼むな。」


何だかんだいっても、所詮田舎者の自分には何を頼んでいいのかよく分から

なかったから、課長と同じで丁度いい。



運ばれてきた料理はどれもとても美味しくて、私の気分も上々だ。


課長との会話も楽しくて、私達は知らず知らずにワインをあけていた。



フレンチレストランからの帰り道、お互いほろ酔いで気分が良くなっていたら

しく、課長のマンションでもう少し飲もうと意気投合。


コンビニで、つまみと飲み物を買って、課長の部屋に向かった。


課長の部屋は20階の角部屋の3LDKだった。


この辺は、あまり高いビルが多くないので窓からの夜景もキレイに見えていた。


部屋は独身の割りに綺麗にしていて、リビングも広い。


「俺はグラスを用意するから、綾瀬はつまみを出せ。」


「は~い。」


言われるままにテーブルにつまみを広げ、三人掛けのソファーに腰かけ、課長を

待っていると、グラスを持って課長が隣に座った。


お互い熱くなってきて、スーツの上着を脱ぎ


「「 乾杯!! 」」


さっきは白ワインだったので、今度は赤ワインで乾杯する。



こうしてプライベートでお酒を飲むのも初めてなのに、世代も仕事も一緒な

だけあって、話題に事欠かない。


課長の低音セクシーボイスは聞いてて心地いいし言う事なしだ。


そうこうしている内に、酔いも回ってきたのかフラッ体が傾いたかと思うと、

課長の胸にダイブしてしまったようだ。


「あ、すいません」


と、見上げた先に見下ろす課長の目が合った。


“あ・・これって・・・”


思うと同時に課長に抱きしめられキスをされていた。


キスは段々深くなり、お互いの舌が絡め合う。



“なんか、気持ちいいかも・・・”


そう思い始めた時、課長は私の手を掴み違う部屋へと連れていく


ドアが開くと、広いベット。


お互い無言のまま、ベットに雪崩込んだ。


お互いの息遣いと服を脱ぐ、衣擦れの音が部屋の中に落とされて


甘い大人の時間が過ぎていった。




素肌に温もりを感じる。


朝の光の中、目を開ければ目の前にはイケメンの課長の顔・・・・。


“そうだ、やっちゃったんだ”


昨日の事を思い出し、改めて課長との昨夜の情事を思い出す。


今までで一番気持ちよかった気がする。



整った課長の顔を眺め、その頬に手を伸ばして触れるとピクっと課長の瞼が動き

、目が開いた。


「おはようございます。

 昨日のこと、覚えてますか?」


「あ~、おはよう。勿論、覚えてるさ。

 久々で気持ち良かった。

 もう一回したいんだけど・・・。」


「エッ、朝から!」


「昨日もしたし、いいだろ?」


「付き合ってるわけでもないし、ダメです。」


「じゃあ、付き合おう。」


「は?私と付き合うんですか?」


「俺とじゃイヤか?」


「イヤじゃないですけど・・・」


「じゃあ、今日からカレカノということで・・・」


そう言うが早いが、課長は私に覆いかぶさってきた。


結局、たっぷりと愛されてしまった。


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