第30話

 俺は頭の中で必死に考えた。

 どうにかして、萌恵奈と同棲を続ける方法はないかと。


 一緒に実家を出て、二人でどこかアパートを借りて暮らす可能性や、どちらかが居候という形で家に居座るか。様々な方法を模索した。


 しかし、お互いに大学から通える位置に実家があるため、わざわざ大学生の身分で同棲するためにアパートを借りて一緒に暮らすのは現実的ではない。

 それに、一緒に暮らしたり居候となれば、その先の話を考えなくてはならないのだ。


 俺達は、大人という身ではありながらも、まだ金銭的には両親に頼っている。

 同棲や居候となれば、どんな形であれ付き合っていることは事実、結婚を前提としてとらえていかなければならない。


 その断固たる覚悟が今の俺にあるかどうかと問われれば、答えはNOである。

 まだまだ未熟な若者であることに変わりはないし、結婚は大学を卒業して社会人になって、萌恵奈を養っていけるくらいの収入を得ることが出来るようになってからでないと、現実的には難しい。


 となれば、やはり折衷案として妥当なのは、定期的にどちらかの家に泊まりに行くという手段が、これから萌恵奈とイチャつくための手段としては妥当なのだろう。


 しかし、それと同時に、スキンシップを取る頻度が減って、萌恵奈が俺の愛に冷めてしまわないだろうかという不安に駆られる。

 今まで三年間でキスを一回しかしてこなかった相手に愛想つくことなく想い続けてくれていた萌恵奈だ。

 そんなことはないと分かっているのに、不安は膨らむ一方。

 だって、何の躊躇もなく愛情表現を取れるようになったのだ。それがいきなりお預けとなってしまえば、萌恵奈のことが好きだと伝える機会も減ってしまうということ。今心に秘めている胸が締め付けられるくらいの幸せがかすれて行ってしまうのではないかと、恐怖に打ちひしがれているのだ。


 どちらにせよ、緊急事態宣言が解除されれば、その後の萌恵奈とのあり方がどうであれ、各々大学の授業がオンラインから通常通りの講義形式に戻り、必然的に萌恵奈と顔を合わせる時間が減少することになる。

 加えてアルバイト先も再開されれば、顔を合わせる機会はさらに減っていき、同棲前の頻度に戻るのだ。


「一人で考え込んでどうしたの?」


 俺が一人ベッドで唸っていると、さすがに気になったのか、萌恵奈が心配そうに視線をこちらに向けて首を傾げてきた。

 何と答えればいいのか、返答に困っていると、萌恵奈がふっと笑んで、チュっと軽くキスをしてきた。

 こうやって今は当たり前のようにしているキスだって、萌恵奈が家に帰ってしまえば容易にできることではなくなる。キスをし終えた後の萌恵奈の幸福感のある表情を垣間見ることも、かなり少なくなってしまうのであろう。

 そう思ったら、なんとも言えない哀愁漂う表情が表に出てしまっていたらしく、萌恵奈が眉を八の字にして心配そうに見つめてきてくれた。


「柊太、大丈夫?」


 萌恵奈の優しい気づかいが、俺の心に染みわたる。

 気が付いた時には、俺は萌恵奈をぎゅぅぅぅっと思いきり抱き締めていた。


「しゅ、柊太!? どうしたの急に?」

「ごめん……今はこうさせてくれ……」


 俺が萌恵奈の耳元で囁くと、ふっと息を吐いた萌恵奈は、何も言わずに俺乗せ加奈に手を回して抱き返してくれた。


 果して、萌恵奈はいちゃつけなくなることをどう思っているのか。

 それは、聞かなくても分かる。

 昨日の晩に見せた、あの別れを惜しむような物寂しい表情を見れば、萌恵奈も本当はずっとこうして俺と同棲生活を続けていたいと思っていることなんて、分かり切ったことなのだ。


 だから、今はこうしてただ萌恵奈と抱き合って、顔を合わせればキスをして、今までの思い出を胸に刻み込むようにして、刻一刻と近づく緊急事態宣言解除宣言の時を待つしかない。

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