第28話

 昨日、大阪、京都、兵庫の三府県が緊急事態地区から解除された。

 残るは一都三県+北海道だけとなり、徐々に経済も回復傾向にある。

 浅見家はものの見事に一都三県なので、相変わらずSTAY HOME。

 リビングでお互いにオンライン授業を受けて、イチャイチャする日々を過ごしていた。


「はぁ……」


 のだが、珍しく萌恵奈がため息を吐いていた。


「どうした、萌恵奈?」

「んん!!!! 外出たいよぉ!!」


 リビングのフローリングに寝転がり、じたばたし始める萌恵奈。

 どれだけイチャイチャ幸せ生活を送っていようとも、外に出たいという欲望は人間の性。

 この一カ月、ろくに家の外に出ていないのだから、いくら幸せな怠惰生活を送っているとしても、ストレスと欲は出てくるものだ。


「外出たい、外出たい、外出たい!!!!!」


 今の萌恵奈は、まさに『おもちゃ買って!』と駄々をこねる子供だ。

 普通に考えて、子供を一カ月外出禁止にさせるのは体調面や精神面からしても良くない。

 まあ、萌恵奈は成人してるけど……。


「無理しなくてもいいんじゃないか? 外出たいなら、マスクして散歩くらいなら

 問題ないだろ」

「マスクやだ」

「いや、子供か!」


 思わず突っ込んでしまった。


「だって、マスクってあの何とも言えない綿の質感が皮膚に当たるだけでぞわってするんだもん。なんかチリチリしてるし、通気性悪いし」

「それは仕方ねぇだろ……」


 今はマスク着用が必須ともいえる。

 マスクをせずに街を歩けば、人々から白い目で見られる世の中なのだから。


「あーあ。マスクしないで外に出て、思いきり羽伸ばせるところないかなぁー」


 萌恵奈の期待を込めた独り言に、俺は顎に手を当てて思案する。


「そうだな……庭とかは?」

「へっ? 庭!?」

「うん。萌恵奈の家なら庭あるだろ? 縄跳びとかその辺りなら出来るんじゃないか?」

「縄跳びかぁ……なんか地味」

「えぇ……」

「それに、今日雨だし」

「そうだな」

「外出たら濡れる」

「いや、傘させよ」

「傘さしながら縄跳びとか苦行じゃん」

「……」


 というか、雨降ってる時点で、雨にぬれずに外で遊ぶことなど不可能に近い。


「仕方ない……折衷案でかくれんぼしよう」

「どこをどう汲み取ったら折衷案がかくれんぼになるんだよ……」

「でもさ! 家の中でかくれんぼって小さい頃よくやったじゃん? だから、大人になった私たちでやろう!」

「えぇ……」

「お願い、柊太。鬼やって?」


 潤んだ瞳で懇願してくる萌恵奈。

 まあ、かくれんぼをすることで少しでも萌恵奈の気休めになってくれるのであれば、やぶさかではなかった。


「仕方ねぇな……ほれ、早く隠れろよ」

「おっけ! じゃあ、5分後に捜索開始ね! 私、それまでに隠れるから!」


 萌恵奈はぴょんぴょん飛び跳ねるウサギのように嬉しそうにリビングから飛び出していった。

 俺は短いため息を吐いて、五分間萌恵奈が隠れるのを待ってあげるのであった。



 ◇



 五分後、俺はリビングのドアを開けて大きな声を上げる。


「もういいかい?」

「……」

「萌恵奈ー? 探すぞ?」


 萌恵奈からの返答はない。まあ、何も言わないってことは探していいって事だろうと思い、俺は捜索を開始する。


 まずは一階から捜索。

 洗面所、風呂場、物置、納戸、書斎。

 一通り調べるものの、萌恵奈は見当たらない。


「となると二階か……」


 俺は玄関前から二階へと続いている階段を登ろうとした時、目の前に広がる光景に言葉を失った。


 何故だろう、階段には脱ぎ捨てられた萌恵奈の衣服。

 上下の衣服が脱ぎ捨てられている。

 えっ……何アイツ。着替えて変装してまで隠れてるの!?


 となると、カメレオンのように目立たないところに変色して隠れているのだろうか。

 そんなことを思いながら萌恵奈の脱ぎ捨てた衣服を回収しつつ階段を登っていく。


「なっ……」


 階段を登り切ると、廊下には脱ぎ捨てられたピンク色のブラとパンツ。

 そして、脱ぎ捨てられた先にあるのは、俺の部屋。


「アイツ……全裸で何やってんだ」


 俺は恐る恐る自室のドアを開ける。

 ぱっと見、部屋が荒らされた形跡はない。

 しかし、明らかにおかしな箇所が一か所。

 ベッドの毛布が明らかに膨らんでいる。


「……」


 いや、あれは間違いなく何かクッションとかが入ってて、ダミートラップ。

 でも、一応はこの短時間で用意したんだ。萌恵奈の功績をたたえるために引っ掛かってやることにした。


「萌恵奈は、ここかぁ?」


 そして、ペロっと布団をめくった瞬間。

 ガシっと腕を何かに捕まれて、そのまま俺はベッドに引きずり込まれる。


「うわっ!?」


 ぼふっとベッドに倒れると、目の前には裸体姿の萌恵奈が同じようにベッドに横たわっていた。


「いやん。見つかっちゃった♪」

「見つかっちゃった。じゃなくて! 何してんの?」

「何って、か・く・れ・ん・ぼ・だよ?」

「なんで裸なの?」

「それは、柊太が見つけ出してくれた時のご褒美♪」

「意味わかんないから」


 何がしたいんだコイツは?

 呆れつつもチュっとキスを交わす。

 そして、萌恵奈はモソモソと手を動かして俺のズボンに手をかけた。


「ってことで、今度は柊太が全裸になる番だよ?」

「ちょ、待って意味わかんない、色々と趣旨変わってるから、かくれんぼはどうした?」

「PS、柊太のベッドの中に裸で隠れてたら欲情してしまったので私を満たしてください」

「なんだよそれ……」


 呆れ交じりのため息を吐きつつも、萌恵奈に下腹部をまさぐられ、既に俺も準備OK!


「かくれんぼ終わり、エッチしよ?」

「欲に忠実すぎだろ……」

「だって……ダメ?」

「ダメ……じゃないけどさ」


 俺と萌恵奈は、外で運動したり、家の中でかくれんぼして童心にかえるよりも、家の中で大人の運動(意味深)するのが、今は一番のストレス解消になるようだ。

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