第27話

 ウイルスの影響により、困窮する学生に一人10万円から20万円の緊急給付金を支給することが閣議決定された。

 しかし、俺と萌恵奈は一人暮らしではなく自宅から大学へ通い、授業料も両親に払ってもらっている身で残念ながら対象外。

 さらに言えば、別に困窮していない。

 友達に一人暮らしの奴が数名程度いるので、その中で学費を自分で払っている奴らが対象になってくるのだろう。


 そして、スポーツ業界ではサッカーのJリーグが、スポーツ業界としては初めての投げ銭システムを導入することを決定した。

 無観客での試合再開が予想されるため、観客の集客収入が見込めないために設置された対策で、契約しているDAZNなどでテレビ観戦した際、試合の内容や選手のパフォーマンスを見て、良かったと思えばお金を投げて支援することが出来るシステム。

 この投げ銭システムは、いくつかのウェブ小説投稿サイトで取り行っているシステムであり、執筆者や読者の方には馴染のある制度だが、果たしてスポーツ業界での初の試みは上手く行くのであろうか?

 これからの様子を見守っていきたいと思う。


 さらには、夏の全国高校甲子園大会が中止となることも発表された。

 高校三年生にとっては、最後の引退となる大会だったために、準備して取り組んできた生徒たちにとっては計り知れないショックがあるだろう。

 影響は野球だけではなく、引退を控えていた各運動部の三年生全員に言えることだ。

 部活も学校生活も不完全燃焼のまま終わり、文化祭や体育祭、修学旅行が中止になって夏休みはなし。

 そのまま大学へ進学する人は、受験勉強へシフトしていなかければならない。

 夏休みがないとなると、学習塾の夏期講習などを受講することも出来なくなり、今年の高校三年生の受験勉強は、まさに息抜きのない苦行ともいえる地獄。


 俺と萌恵奈が受験勉強をしていた頃は、普通に外出出来て高校生活も当たり前のように行われていたことを思うと、当たり前の日常が無いことがどれほど苦しいことかが身に染みる。


 とまあこんな感じで、様々な対策が各方面で次々と打ち出される中。

 都内の感染者数は一桁から十人程度を日々上下する毎日。

 一時は一日の感染者数が二百人を超えていた日もあるので、そう考えると確実に成果は出てきている。

 もう少しの辛抱で、通常の日常生活を少しずつ取り戻すことが出来ると信じて、今は自粛を頑張りたいところだ。


 大手ネットのウェブサイトで最新の情報を得ながら、相変わらずのカクカク画面のオンライン授業を受ける俺。

 一方で、優雅に紅茶を嗜みながらソファに腰かけて、スムーズに流れる映像でオンライン授業を受けている萌恵奈。


 俺達の同棲生活も、一カ月を迎えようとしていた。

 外は相変わらずどんよりとした曇り空で、少し肌寒さも感じるほどの陽気だ。

 去年の今頃は、35度の真夏日を超えていた気がする。

 年によって気温の変化も穏やかだったり急激だったりと、風邪をひかないように服装にも神経を使う。


 俺は長袖のTシャツにグレーのフード付きパーカーを羽織り、下は紺のチノパンに靴下というスタイル。

 対して萌恵奈は、白いTシャツに黄色いパーカーを羽織っていて、下はまさかのデニムのショートパンツ。

 長くてほっそりとした脚を組み、惜しげもなく生足を見せつけている。


 授業が切りのいいところで終わり、俺は萌恵奈を見つめた。


「なぁ……その格好寒くないの?」

「へっ、全然平気だけど。ってか、柊太そこその格好暑くない?」

「いやっ、俺むしろこれでも少し肌寒いんだが……」

「えぇ、嘘でしょ!? 柊太風邪ひいてるんじゃない?」

「そ、そうなのかなぁ?」

「熱計ってみれば?」


 萌恵奈に促される形で、俺はタンスから体温計を取り出して検温する。

 体温計がピピピっと計測終了の音を鳴らして、脇から体温計を取り出して体温が表示された画面を見る。


 36.5度、いたって平熱だった。


「6度5分……平熱だな」

「なら、私もついでに測って見よっと!」


 俺の手から体温計を奪い取り、自らの脇に挟んでさっさと測定を始めてしまう萌恵奈。

 しばらくして、またピピピっと検温測定終了を告げる音が鳴る。


 萌恵奈が体温計に表示された度数を見ると、少し顔を顰めた。


「5度5分……」


 おう……まさかの低体温。


「まっ、それだけ足出してれば、熱も放出されるわな」

「ち、違うし! これでも私の身体、全然冷えてないし!」

「まあでも、お互い熱はなかったんだし、健康なら別にいいだろ」


 俺は萌恵奈から体温計を再び受け取り、タンスの中へと閉まった。

 まあ、男の子と女の子って身体つきとか体感温度とかに多少個人差あるっていうし、許容範囲だろう。


「それで、話変わるけど、今日の夜飯何食べたい?」


 尋ねると、萌恵奈はうーんと唸りながら顎に手を置いて考える。


「うーん……昨日はカレーだったし、少し和食系が食べたいかも」

「おっけい。なんか適当に見繕ってみるわ」


 俺はキッチンへと向かい、冷蔵庫の中身を確認する。

 週に一度ceepが配達に来てくれるので、浅見家は食材に困ることはない。

 後はレシピさえあれば、大体の物は作ることが出来ると思う。


「適当にサラダ作って、メインは、冷凍のサバの切り身が来たから、それ焼いて食うか」

「そうだね、久しぶりにお魚食べたいかも」


 いつの間にか後ろについてきていた萌恵奈が、俺の独り事に相槌を打って頷いていた。


「よしっ、それじゃあ作るけど、萌恵奈手伝ってくれるか?」

「もちろん! 柊太のそばにずっとくっついてるよ」

「いやっ、調理も手伝ってくれ」

「えぇ……それじゃあイチャイチャできないじゃん」

「二人でさっさと調理済ませた方が、たくさん後でイチャイチャできるぞ?」

「じゃあ手伝う! その代わり、ちゃんと後でいっぱいチューしようね?」

「わかってるって」


 こうして、甘々同棲生活は、今日も幸せいっぱいの雰囲気に包まれながら、続いていく。

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