第25話
今週も、変わらぬ日常が始まろうとしていた。
「ふわぁぁぁっ……眠い……」
俺はリビングのソファに腰かけて、口を大きく開いて大胆に欠伸をする。
昨日は突然の両親の帰宅から始まって、慌ただしい一日だった。
寝る前に萌恵奈から誘われて、二人で随分と夜深くまで盛り上がってしまった。
おかげで、今日は完全に寝不足状態、頭がぼおっとしていて思考が働かない。
「ダメだ。また欠伸が……ふあぁぁっ……んごっ」
大きく開けられた口を塞ぐように、萌恵奈がぱくっと俺の欠伸を飲み込むかのようにしてキスしてくる。
口が閉じられて、パクっと唇を食べられ、くちばしを押さえられて身動きが出来ない鳥みたいになってしまう。
「んんっ……チュ」
ようやく唇が解放されると、萌恵奈が満足そうな笑みを浮かべる。
「萌恵奈は眠くないの?」
「ん? えへへっ……昨日は幸せだったから全然眠くなっ……ふわぁぁぁ」
言ったそばから可愛らしく口をあんぐりと開けて欠伸をかます萌恵奈。
俺も仕返しとばかりに、萌恵奈の開いた口を覆うようにはむっと口を食べる。
萌恵奈はそれを容易に受け入れるようにして、口を閉じ唇を合わせてキスを交わす。
チュゥゥゥっとお互いに唇を押し付け合ってから、顔を同時に離した。
「えへへっ……やっぱり眠い」
「だよな」
今日は一限からオンライン講義があるため、こうして朝早くから起きているわけだが、人間の三大欲求が満たされぬと、人間の頭は正常に働いてくれない。
二大欲求が満たされている今、俺達に必要なのはまさしく睡眠。
しかし、授業をさぼるわけにもいかないので、こうしてお互いに眠らないよう監視しているのだ。
「ヤバイ……授業まで起きてたとしても、内容が頭に入って来る気がしない」
「そうだねぇ……ふわぁぁっ……ちょっと仮眠する?」
「いや、そしたら絶対寝過ごす未来が見えてるからいい」
「タイマーかけとけば大丈夫だって」
萌恵奈の魅力的な誘惑に負けて、授業開始時刻まで仮眠をとるかどうか、頭の中で葛藤していた。
しかし、その葛藤をもみ消すように萌恵奈がチュ……チュっとついばむようにキスを連発してくる。
その甘いとろけるようなキスに、俺はついに頭がぐわんぐわんと蕩けきり、重力に従うようにソファに横になってしまった。
「やっぱ起きてるの無理……萌恵奈の言う通りちょっと仮眠する」
「私もするー」
そう言いながら、萌恵奈は俺に覆いかぶさるようにしてソファに寝転がってきた。
「うっ……重い」
「むぅ……女の子に対してデリカシーが掛けてるよ?」
「ごめん……ふわぁぁっ……でも、今それどころじゃない。眠すぎる……」
「もう……しょうがないんだから……」
萌恵奈はソファ前にあるローテーブルで何やらポチポチスマホを操作し終えてから、俺の胸元の上に頭のぽんとのせて、眠る体勢に入る。
「おやすみー」
「うん、おやすみ……」
まもなくして、二人は深い眠りへと落ちていった。
ピロピロピロ……。
遠くから、微かに聞こえてくるスマートフォンの音。
すると、萌恵奈がすぅっと起き上がり、タイマー音を消した。
そして、眠そうな唸り声をあげながら時刻を確認して、ふぅっとため息を吐いたかと思えば、そのまま再び俺の胸元に頭をのせてきて、何事もなかったかのように二度寝の体勢に入る。
「萌恵奈ぁ……授業は?」
「うーん……眠いからいい」
「えぇ……」
「だって、眠すぎるんだもん。柊太あったかくて心地いいし」
「うん……」
萌恵奈はずるずるっと身体を上にずらして、俺の頭の横に顔を置いた。
「それにぃ……今日はこうして柊太とべったりくっついて、ぬくぬくしてたい気分なの」
「そっか……」
萌恵奈は俺の身体に巻き付くように抱きついてくる。
「うちの大学も配信後三日間は映像残ってるし、問題ないよー。今は、柊太とまったりするのが優先」
「昨日もずっとベッタリしてたけどな」
「き、昨日はベッタリというより、ズンズンって感じで激しかった」
「……もうそれ以上言わんでいい。眠いから寝ようぜ」
俺は顔を萌恵奈から逸らして眠る体勢に入る。
「ふふっ……照れてるの? 激しくて気持ちよかったよー」
「寝ぼけてるからって大概にしろよー。俺は寝る。おやすみ」
「えぇ……今からもう一回気持ちいいことしてから、寝てもいいんだけどなぁ……」
適当なことを言い出す萌恵奈。
しかし、俺も頭が回っていないので、欠伸交じりに言葉を適当に返すことしか出来ない。
「ふわぁぁぁ……悪いけど、今そんな体力は持ち合わせてない」
「そだね。私も多分してる最中に寝ちゃいそう」
なら、今は睡眠欲求と同時に、愛を満たすのが賢明な判断だ。
俺も萌恵奈の背中に腕を回して、お互いに抱き合う体制になる。
「ほれ、いいから寝るぞ」
「うん、おやすみ……」
「おやすみ」
こうして、俺達は再び睡魔の波へと吸い込まれていきました。
この後、お昼前に飛び起きて、午後はお互いに真面目に見逃したオンライン授業の配信映像を見て、真面目に授業内容をノートに書き写す羽目になったことは、言うまでもないことだ。
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