第22話

 昨日、予定通り47都道府県のうち、39県の緊急事態宣言が解除された。


 緊急事態宣言が解除されたことよりも驚きだったのが、残り8都道府県だけで日本の人口の約半分を占めているということ。

 やはり、東京・大阪近郊の人口密集率というのは、他県と比べ物にならない密度であることを改めて実感する。

 

 加えて、東京都の感染者数は30人と少々増加傾向。それよりも深刻なのが、ここにきて神奈川県の一日の感染者数が東京都よりも多くなってしまっているという現状。


 神奈川さん……頑張ってくださいよ!

 もう既にクルーズ船の件やら何やらで、コロナの元凶横浜と外野から揶揄されているんですから。

 県民として自粛している身としては、申し訳が立たない。


 でも、感染者の半数が院内感染だそうで、日々コロナの恐怖と戦っている医療従事者の方々だと思うと、より一層努力して自粛しなければと身が引き締まる。


 それから、首相の会見を見ていて思ったのが、質疑応答に移った際の記者達による質問内容。これがまた、緊急事態宣言と全く関係ない質問ばかり。


 三権分立が崩壊するやら、政府の私的介入やらのウイルス無関係のことだらけ。


 学校で例えるなら、所属している部活の顧問かつ教師である先生が日本史の授業中に、『はい、ここまでで質問ある人』と聞いて、『はい! 今日の部活何時からですか?』と聞き返すようなもの。

 

 今はウイルスの話をしているのに、検事総長の定年延長の質問をするという頓珍漢なことをしているのに気づいて欲しい。

 確かに、首相と先生じゃ容易く質問できる機会の違いはあるにしても、その場の趣旨・目的を取り違えた質問は差し控えるべきだと思う。

 部活のことがどうしても聞きたくて仕方がないのなら、授業が終わった後に職員室で個別に聞きにいけばいい。まあ、首相だと難しいけれど。

 こうしてまた、『これだからマズゴミは』と、ネットがざわざわするのだ。


 とまあ、マスコミに関する批判はこのくらいして。

 机上に置いてあるノートPC上に映っている映像もまた、画像がカクカクしていて何を話しているのかさっぱり分からない相変わらずのゴミスペックを絶賛発揮中だった。


「はぁ……本当にゴミ。ゴミ過ぎて泣ける」

「まーたオンライン落ちてるの?」

「落ちてるのこうもないよ。見てよこれ」

「うわぁ……これは酷いね」

「これなら、20年以上前に録画したビデオテープの方がまだマシだよ」

「確かに……これは完全にオワコンしてるね。映像技術の衰退が垣間見えるよ」


 大学側も慣れないオンライン授業の取り組みに手こずっているらしく、案の定ポータルサイト上で公開されている授業内容は見るも無残なカクカク映像。

 そろそろヨウツベで生配信するとか、インスタライブで配信するとか、他の方法も取って欲しいところ。

 このままだと、一生授業が受けられぬまま、前期の単位をすべて落とすことになりかねない。


「まあまあ、オンタイムで見るのは諦めて、比較的回線が落ち着く夜にでも受講しなって」

「はぁ……そうすっか」


 萌恵奈の助言にのっかり、俺はノートPCをシャットダウンしてパタリと閉じた。


「というわけで、私の授業が始まるまでの間。イチャろ?」

「授業があろうがなかろうが、ずっとイチャついてるだろうが」

「まあまあ、そこは置いておいて」

「置いとくなよ!」

「んーっ……」


 目を瞑り、顔を近づけてくる萌恵奈。

 そのキスをせがんでくる姿が可愛らしく、俺はついつい顔を近づけて唇を重ねてしまう。


 チュッ……。


 俺、このままだと萌恵奈と処構わずキスしたがりのキス魔になりそう……。

 そんな不安を知る由もなく、萌恵奈は何度もチュッ……チュッと小鳥のさえずりのように唇をくっつけたり話したりを繰り返す。

 そして、最後にチュウゥゥゥ!……っと思い切り柔らかい唇を思いきり押しつけてきて、パァっと離す萌恵奈。

 表情は非常に満足気で、頬に手を当てて幸せそうに顔をほころばせている。


「はぁぁぁぁ……今日も柊太とキスするの止められない。どうしよぉぉぉ……自粛期間終わっても事あるごとに柊太とキスしたくてたまらなくなってる自分が想像できちゃうよ」


 俺と同じ考えを平然と口にする萌恵奈。

 ホント、お互いどんだけキスしたいんだ。

 付き合いたてのバカップルぶりを発揮している中、ふと萌恵奈が思い出したように頬にあてていた手を顔の前で合わせた。


「そうだ! 外出自粛が終わってもさ、毎日日替わりで一緒に寝泊りしようよ! 柊太の家に泊まったら、次の日は私の家に来て柊太が泊まる。そしたら、ずっとこうしていられるよ!」


 とんでも羨ま発言を放ってくる彼女幼馴染。

 まさに、隣同士に住んでいて、両親同士が仲がいいからそこ実現可能でお互い都合のいいイチャつける環境。

 しかも、毎日ときた。


 こうなったら、萌恵奈の両親に直談判しに行くしかないだろう。


「よしっ! 腹くくるか」

「ん? どうして?」


 きょとんと首を傾げる萌恵奈。


「そりゃあれだ。萌恵奈の家に泊まりに行くための交渉だ」

「そんなのしなくても平気だよ。小さい頃から普通に寝泊りしてたんだし、柊太なら両親も快く快諾してくれるって!」

「でもな、一応今は恋人関係なんだから、建前上でも許可は取っておかないと」

「真面目だなぁー。ま、そこが柊太のいいところでもあるんだけどね」

「とにかく、緊急事態解除されたら、萌恵奈の両親に話付けに行くから、それでいいだろ?」

「ふふっ……私と毎日イチャつきたいからって、どんだけ必死になってるの」

「お前に言われたくない」


 緊急事態宣言後も、萌恵奈とのイチャイチャプランを練った。

 これで同棲とまではいかないものの、いつでもイチャイチャできる環境が整いつつある。

 自粛が終わったらすぐに、萌恵奈のご両親に話を付けようと心に決める柊太なのであった。

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