第15話

 GWも終わり、世間的にはいつもの日常の日々が戻ってきた。



 普段ならばこの時期から流行り始める五月病も、そもそもテレワークなので今年は症状を起こす人も少ないのではないだろうか。

 そもそも、四月半ばからテレワークで仕事をしているので、既に家にいるのが飽きて憂鬱な気分になっている人が大半かもしれない。


 ウイルスとの戦いは、GWだったこともあり、都内のウイルス感染者数は4日連続二桁に落ち着いた。

 まあ、祝日で検査母体数が少ないというのもあるとは思うので、引き続き不要不急の外出は控えることに変わりはない。


 俺と萌恵奈の同棲生活も三週間目に突入した。

 もう慣れ親しんだ同棲生活のルーティーンに、GW明けから変化が生まれた。

 それは、萌恵奈の通う大学のWEB授業が始まったことである。


 PCを開いてネット回線をつなぎ、特定の大学専用のポータルサイトにアクセス。PDFファイルで添付された資料をダウンロードして、それをもとにPC画面越しに映る教授の講義を、萌恵奈は頬杖ついてつまらなそうに聞いていた。


 俺は萌恵奈の邪魔にならぬよう、リビング以外の部屋や廊下に掃除機をかけたり、風呂を掃除したりして時間を有効活用していた。


 掃除を終えてリビングに戻ると、授業を聞いているのか聞いていないのか分からないように、萌恵奈がだらんと机に寝そべっていた。


 おおかた大学の講義は90分。

 萌恵奈は授業を受け始めて1時間も経たぬうちに飽き飽きしてしまった様子。


 手持ち無沙汰になったので、俺も椅子を引っ張り萌恵奈の横へ座る。


「何の授業これ?」

「ん? 多分、社会学?」

「なんで疑問形なんだよ。お前の受けてる授業だろうが……」

「だって、内容全然知らないし。先輩に楽単だから取った方が良いよっておすすめされて履修しただけだし」

「お、おう……」


 こいつ、授業受ける気、元々ゼロだな。

 ちなみに楽単とは、楽に単位が取れる講義のことで、テスト問題は選択問題マーク式だったり、1500字程度のレポート提出のみなどの条件が楽単に当てはまる。

 ちなみに、教授によっては出席の回数だけで成績に直接反映してくれる講義もあるので、真面目に大学に通える人にとっては個人的におすすめだ。


「ちなみに、今日はあと何コマ受けるんだ?」

「午後に2コマ」

「……お疲れさん」


 ご愁傷さまと、ねぎらいの言葉をかけると、萌恵奈はむくっと起き上がった。


「柊太。代わりに授業受けて?」

「いや、俺が受けても全く無意味だから」

「ケチ……じゃあ、一緒に授業聞いてて!」

「えぇ……ヤダ」


 彼女幼馴染のお願いでも、他大学の講義を無償で受ける義理はない。

 萌恵奈は、頬杖をついてPCの画面を見つめながら、むぅぅっと唇をとがらせる。


「あーあ。せっかくの自粛生活だっていうのに、これじゃあ家で通信制の学校に通ってるのと一緒だよ。柊太とのイチャイチャ時間も減って、ストレス溜まる」

「初日でそれだと、先が思いやられるな」


 俺がこめかみを人差し指で押さえていると、頬杖していた萌恵奈が顔をこちらに向けてきた。


「柊太、今は暇?」

「うん。特にこれといってやることはない」

「じゃあチューしよ」


 萌恵奈は頬杖を突いたまま顔だけこちらに向けて、目を瞑り唇を前に出してくる。


「いやっ、今授業中だろ?」


 すると、萌恵奈は目を開けて、むすっとした様子で見つめてくる。


「別にWEB授業なんだから、私が何してようがこっちの勝手でしょ」

「いやだからって……」

「いいから早くキスして!」


 駄々をこねるようにもう一度キス待ちをしてくる萌恵奈。

 キスしてあげないと、物事が先に進まないと感じた俺は、深いため息を吐いた。


「……これで、単位落としても、俺は責任取らないからな?」


 一言責任逃れの言葉を吐いて、俺は萌恵奈に軽くキスしてやる。


 チュ。


「ふふっ」


 萌恵奈は満足げに目を瞑ったまま口角を上げて微笑む。

 そして、またすぐに顎を少し上げて唇を突き出してくる。


 仕方なく、俺はもう一度彼女にキスをしてあげた。

 だが、萌恵奈は軽く唇を重ね合うキスじゃ飽き足らず、唇を絡め合うようにしてキスしてくる。


 俺も合わせるようにして、キスを交わす。

 リビングの中に、チュパチュパとキスの音が響き渡る。

 気が付けば、俺と萌恵奈は夢中になってお互いの唇を貪り合うようにキスを重ねていた。

 今が授業中だということも忘れて――。


 結局、大学の講義があろうがなかろうが、家の中で二人きりの同棲生活をしている限り、イチャイチャを止める術はないのだなということに改めて気づかされた。


 俺と萌恵奈のキスがひと段落した頃には、既にWEB配信が終わっていたことは、言うまでもないことだった。

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