第7話

 今日は祝日。

 世間的にはGWの大型連休期間に突入した。


 本来であるならば、新幹線の乗車率200%、飛行機は終日ほぼ満席、高速道路は首都圏から帰省する車で各高速有名な渋滞スポットを先頭に30kmの渋滞。

 などと、大々的に首都圏から人が減少する傾向にあるのだが、今年の装いは大きく異なる。


 その元凶ともいえるウイルスは、昨夜のニュースで感染者数が再び三桁となった。

 先週の同じ曜日と比べても9人しか感染者は減少しておらず、ほぼ横ばい状態と言っていいだろう。

 まだまだ、自粛要請の期間は長引きそうな予感がぷんぷんと漂っている。


 家の中で過ごし、外に出れないストレスと戦い、世間は寂しいGWを迎えている。

 そんなご時世の中で、我が浅見家は、皆がストレスを抱えてオフィスワークをしている間にも、幸せな時間を過ごしていた。


「しゅーうたっ! チュー」

「ん」


 ソファに腰かけ、当たり前のようにキスをせがんでくる彼女に対して、当然のようにキスをしてあげる俺。

 恐らくというか、間違いなく付き合いたてのカップルよりも浮かれて惚気ている。

 他のカップルたちは、STAY HOMEで会えない日々が続き、ラインのビデオ通話やスカイプなどを通じて『早く直接会いたいね』などと言って、我慢している日々を送っていることだろう。


 それに比べて、俺達は幸せ者である。

 絶賛『STAY OFFICE』中で、ブラック企業勤めの両親に邪魔されることなく、こうして自粛期間の間二人きりでひたすらイチャイチャスキンシップが取れるのだから。

 他のカップルから見れば、羨ましいうえこの上ないに違いない。


 しかし、これが元々同居している夫婦となると、『仕事がテレワークで家にずっといるので鬱陶しい』や『もう早く離婚したい』などと愚痴をこぼし、愛を育む時間が増えるどころか、愛を捨てる選択をするのだから不思議なものである。


 まあ、三年間という付き合いの中でスキンシップを取ってこなかったことや、幼馴染で、ある程度お互いの性格や態度の取り方を知っている仲だからそこ、俺と萌恵奈の関係性は特殊なのだとは思うけれど、鬱陶しいとか同じ空間に居たくないと思うことは微塵もない。


 その証拠に、今もこうしてソファで肩を合わせて、お互い目が合えば軽くキスを交わすという行為を飽きることなく繰り返している。


「ねぇ、柊太暇~!」

「そうだね」


 同棲を始めて一週間。

 スマートフォンを禁じられている今。

 テレビも再放送やウイルス関連のニュースばかりで、目新しい娯楽番組はほとんど放送されていない。

 萌恵奈が持ってきたゲーム機やテーブルゲーム、トランプなども一通り遊び尽くしてしまった。


 今、萌恵奈と出来ることといったら、こうしてベッタリくっついてキスするくらいだ。


「何しようか?」

「うーん……」


 萌恵奈は、しばし考えるような仕草をした後、縋るような目で上目遣いを向けてきた。


「また昨日みたいに、エッチ……する?」


 萌恵奈の甘えるような視線に思わず首を縦に振りかけるが、ぐっと気持ちを堪えて俺は咳払いをする。


「いやっ……さすがにそれはちょっと……」


 昨日あれから、萌恵奈の身体を堪能しまくって、一緒に添い寝して、起きたらまた堪能しては寝てを繰り返した。


 気がづけば、陽は傾き空はオレンジ色に染まっていた。

 昨日が初めてだったにもかかわらず、萌恵奈と三回も堪能してしまったので、俺の身体には怠さと倦怠感が襲っている。


「ダメ……なの?」

「うぅ……」


 こてっと可愛らしく首を傾げて、顎を俺の肩にちょこんとのせてくる萌恵奈。

 トロンした表情とを向けてくるのと同時に、俺の下腹部を手でまさぐってくる。

 これじゃあ、まるで萌恵奈の方から『昨日みたいに俺とシたい』と言ってきているようなものだ。


 表情では狼狽えるものの、萌恵奈の可愛さと直接的な刺激のせいで、俺のモノは完全にいつでも万全の状態になってしまう。


 俺は困ったように頬を掻きつつ、大仰にため息をついた。


「ほれ、部屋行くぞ……」

「ふふっ……うん、いこっ!」


 ちょっぴり意地悪な顔を浮かべて笑った後、すぐに無邪気で嬉しそうな笑顔を浮かべて頷く萌恵奈を見て、ソファから立ち上がり、萌恵奈の手を引いて自室へと向かう俺は、今日も派手にやってしまうんだろうなと、心の中で感じてしまうのだった。

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