第5話
あれから、どれくらいキスし続けていたのだろうか。
もう唇がふにゃふにゃにふやけてしまうくらいチュッチュっと三年分の元を取り返すようにして、萌恵奈とのキスを堪能しまくっていた。
既に窓から見える空はオレンジ色に染まっており、日が暮れようとしている。
「んっ……んんっ……」
甘い吐息を吐く萌恵奈の唇を貪るようにしてついばみ、最後に力一杯押しつけるようなキスをぎゅぅぅぅぅっとして、ようやく唇を離した。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……はぁ……はぁ……」
お互い息が乱れるほど夢中になってキスしていた。
これで1回換算だったら、俺は死ぬまでずっと萌恵奈とキスし続けていなくてはならない。
「もう、がっつき過ぎ……バカ」
「ご、ごめん……」
反射的に謝ってしまうけども、萌恵奈の表情は満更でもなさそうに頬が緩んでいる。
「ふふっ……えへへっ」
嬉しそうに破顔して笑みを湛える萌恵奈。
あぁ……こんなにキスしただけで喜んでくれるなら、もっと早くからキスをたくさんしてあげていればよかったと改めて後悔した。
「さてとっと! 夜ご飯どうしようか!」
萌恵奈はピョンとソファから飛び起きて、俺に尋ねてくる。
「ウーバーイーツで何か頼めば……」
「ダメ!」
俺の提案に対してバツ印を手で作って即却下する萌恵奈。
「バイト出来なくてお金に困窮してるってのに、デリバリー頼もうとしてる時点で考えが甘い!」
「えぇ……いやっ、別にあとから親に請求すればいい話で……」
「そう言う問題じゃない!!」
ふるふる首を振って意図が伝わらないことに萌恵奈はぷんすか頬を膨らませる。
「いい涼太? これは私たち二人っきりの同棲生活なの。だから、今後のことも考えて自炊するべきだと私は思うのです!」
「今後のことって?」
「そ、それはだから……ほ、本当に二人で暮らすことになったりとか……そういう時ってこと!」
頬を朱に染めて恥じらいながら唇を尖らせる萌恵奈。
俺は誤魔化すように話をささっと切り替える。
「まっ……確かに毎日外食ってのも健康的に良くないしな! 面倒くさいけど自炊すっか」
「私の意見ガン無視!?」
あんぐりと口を開けてツッコミを入れる萌恵奈は置いておき、俺はキッチンの冷蔵庫へと向かう。
好都合にも、浅見家では毎週
冷蔵庫の中には、調理に使えそうな肉やお野菜、乳製品が一式揃っている。
「何か食いたいものあるか?」
「うーん……中華系が食べたいかも」
「わかった」
萌恵奈のリクエストにより、今日の夕食は中華料理に決定する。
ちなみに、俺は両親のブラック残業のおかげでほぼ自炊していることもあり、料理スキルについては一般的主婦並みの実力は兼ね備えているから問題は無用。
早速手を洗って、エプロンを身につけて調理を始めたのだけれど――
「……あの、萌恵奈さん?」
「ん、なぁに?」
「凄い調理しにくいんだけど……」
萌恵奈は、エプロン姿の俺の背中にピタっとくっついて、お腹に手を回して抱き付いている。
「大丈夫! くっついてるだけだから、気にしないで!」
「いや、超気になるし、包丁使う時危ないから離れて?」
「むぅ……仕方ない」
萌恵奈は渋々と言った感じで俺に抱きつくのをやめてくれた。
しかし、隣にピタリと並び、俺が調理する様子をまじまじと見つめてくる。
「……」
や、やりずれぇ……。
視界の端で萌恵奈の視線を感じて、調理に集中できない。
この場合、どう対処するのがいいんだろうか?
タン、タンっとリズミカルに野菜を切りながら考えていると、妙案を思いついた。
「よかったら一緒に作る?」
「うん!」
目をキラキラさせて、待ってましたとばかりに嬉しそうな萌恵奈。
どうやら、彼女のご期待に添えたようでほっとしました。
「エプロン取ってくるね!」
タッタッタっとキッチンからリビングに置いてあるでかい荷物の方へと向かい、萌恵奈はエプロンを取りに行く。
「ふぅ……一緒に調理っていうのも、時間の短縮になって手間も省けて達成感もあるから、一石二鳥かな」
ぶつくさそんなことをつぶやきながら、萌恵奈が戻ってくるの間にも調理を進めていった。
◇
二人で仲良くクッキングは無事終了。
萌恵奈も普段から両親の家事を手伝っていることもあって、手際よく進んでいき、予定よりも早く夕食が完成した。
俺達はテーブルに向かい合って座り、いただきますの挨拶をしてから、自分たちで作った麻婆豆腐と回鍋肉とサラダを取り分けていく。
ちなみに、味付けはすべてクックドゥーさんです。
ありがとう、味の素!
「んんっ! おいひい!」
幸せそうな表情で頬を緩ませる萌恵奈。
「それはよかった」
「やっぱり、二人で一緒に作ったから、余計においしい気がする」
「そうか?」
「そうだよ! だって、二人で真心こめて作った愛情が入ってますから!」
「そ、そうだね……」
そんな恥ずかしいこと、よく平気で言えるよな。
と思ったら、徐々に萌恵奈も自分で言ってて恥ずかしくなったのか、俯きがちに耳を真っ赤にしていた。
俺の哀れな視線に耐えられなくなったのか、パクっと麻婆豆腐を口に運び、ひき肉が変なところにでも入ったのか、ごほんごほんとせき込む萌恵奈さんでした。
◇
夕食を食べ終え、一緒に食器も洗い終えたとこで、俺はふと萌恵奈に尋ねた。
「あ、そうだ。今から風呂洗うけど、どっち先入る?」
「え? 一緒に入らないの?」
萌恵奈は口をへの字にして、当たり前のように言ってくる。
「はっ!? 待て待て! いくら同棲とはいえ、いきなりハードル上げすぎだろ!」
「べっ、別にお風呂一緒に入るくらい普通じゃない!? キスと同レベルだよ」
「いやいやいや、もっと風呂一緒に入る方がハードル高いわ! なんならハードル高すぎてカンストしてるっつーの!」
全くもう。三年間我慢してきた欲望が溜まっているとはいえ、初日から飛ばし過ぎだ。
「えぇ……一緒に入ってくれないの?」
「今日のところは我慢してくれ……俺の心の準備がいろいろできてないから」
「ぶぅーヘタレー意気地なしーあんぽんたんー!」
「何とでも言え……」
自粛期間はまだ一週間以上あるのだ。
その間に徐々にイチャイチャレベルを上げて行けばいいだろう。
まあ、キスだけなら、今日だけで相当レベル上げしたけどね!
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