第4話

「……」

「……」


 機嫌を損ねてしまった萌恵奈は、テレビを見ながら俺のことをいない存在として完全無視。

 24時間、喧嘩中の彼女幼馴染と寒々とした同棲生活が幕を開けてしまいました。


 ちなみに、スマートフォンはあえなく没収されました。

 あぁ……Uレアがぁぁ……俺の100連ガチャが……!!


 とまあ、そんなことは今はどうでもいい。

 このまま自粛期間中、萌恵奈とピリっとした空気の過ごし続けるのは苦痛でしかない。

 萌恵奈を怒らせてしまった原因は俺にあるので、何としてでも萌恵奈のご機嫌取りをしなくてはならない。


 萌恵奈は、白いソファに腰かけてつまらなそうにニュース番組を見ている。

 テレビ業界も密室・密接・密集の三密を防ぐため、バラエティー番組やドラマ撮影の番組制作を停止しているため、新しいものが放送できず、自粛前に貯め撮りしていた特番やドラマの再放送、ウイルス関連のニュースしかやっていていない。

 影響はアニメにも出ていて、番組の延期や中止が発表されている作品も多数ある。


 萌恵奈が見ているニュース番組では、今日の感染者数に関するニュースが報道されており、ウイルスの感染者数は後を絶たず、外出自粛前と感染者数は横ばいで変わらぬまま。むしろ全国的に見れば、多少の増加傾向にあるとみられている。

 緊急事態宣言が出ても、終息の兆しは見えぬどころか、ロックダウン、いわゆる都市閉鎖も現実味を帯びてきてしまうのかもしれない。


 って、テレビのニュース番組に関心している場合じゃない!

 今は、萌恵奈のことが第一優先事項だ。

 なんなら、この自粛期間中は一番に常に萌恵奈のことを考えていなくては!


 萌恵奈は、ニュース番組に飽きたのか、リモコンのボタンを押して何か面白そうな番組がないかとポチポチボタンを押していく。

 すると、とある番組のドラマの再放送で手が止まる。


 昔の医療ドラマで、確か突然江戸時代にタイムスリップしまい、そこで主人公が試行錯誤しつつ人を助けていくという内容だった気がする。


 テレビの画面には、今も人気を博する美人女優さんが映っており、『コレラにはペニシリンというお薬が有効なのでございますか?』などと主人公の外科医に対して尋ねている。

 どうでもいいけれど、コレラとコロナの語呂合わせの近さは異常。


 そんなことはどうでもよくて、俺はおずおずと萌恵奈が座っているソファの後ろへ近寄っていく。

 ソファのひじ掛けに肘を置き、頬杖ついている萌恵奈からため息がこぼれ出る。


「はぁ……ろくな番組やってない」

「だな」

「うわっ!? びっくりした……」


 独り言に相槌を返されると思ってもみなかったのか、ビクっと飛び跳ねてこちらを振り返る萌恵奈。

 しかし、目を丸くしていたのも一瞬のことで、すぐにぷぃっと目を逸らす。


「な、何?」


 鋭い声で尋ねてくる萌恵奈。

 まだ拗ねているらしい。


 俺は、萌恵奈の表情が伺えるソファの前に回り、床に正座して座り込む。


「萌恵奈……さっきはすまなかった」


 俺は頭を下げて萌恵奈に土下座する。


「さっきの行動は俺が軽率だった。反省してる……雰囲気ぶち壊した上に、萌恵奈に恥ずかしい思いさせてすまなかった」

「……はぁ、いいよ。別に……私もいきなりされてちょっとびっくりしたけど、もう怒ってないから」

「本当か!?」

「その代わり……仲直りの印……して?」


 萌恵奈は恥じらいつつ、分かるでしょと瞳で訴えてくる。

 俺は、コクリと頷いて、一度立ち上がって萌恵奈の隣に腰かけ直す。


「こっち向いて」

「うん……」


 萌恵奈が俺の方を向くと、俺はそのまま萌恵奈の頬へ手で軽く触れ、顔を近づけていく。

 そして、チュっと仲直りの印の優しい口づけをした。


 これで、通算3回目のキス。唇と唇同士の換算なら、2回目。

 2年ぶりだというのに、ごく自然に出来た方だと思う。

 萌恵奈の唇は、ぷるんと潤っていて跳ねるような柔らかさかあった。


 ゆっくりと唇を離して見つめ合うと、萌恵奈は蕩けた表情で縋るように見つめてくる。


「まだ足りない……」


 そう言って、今度は萌恵奈の方から口づけを交わしてくる。

 少しずつ、相手の感触を確かめるように、貪るようにキスをしていく。

 ようやくお互いの唇が離れて、また見つめ合う。


「三年分……」

「えっ?」

「この自粛期間の間に、三年分のキス分の元取ってもらうから」

「三年分って……1日1回計算でも1000回以上しなきゃいけないんだけど?」

「それくらいの意気込みで毎回キスしてってこと……」

「ちなみに、今ので何回換算?」

「……1回に決まってるじゃない、バーカ」


 恥じらうように頬を染めて目を伏せる萌恵奈。


「24時間ずっとキスしてても元取れる気がしねぇ……」

「べっ、別に回数は気にしないから、その代わり、質で返してってこと!」


 自分で言うのも恥ずかしかったのか、誤魔化すようにしてもう一度キスしてくる萌恵奈。

 俺はそれを受け止め、萌恵奈との口づけを味わう。

 あぁ……どうして今までキスしてこなかったんだ俺は。

 こんな簡単に萌恵奈とキスが出来るのなら、今まで付き合っていた期間がホント馬鹿みたいに思えてきてしまう。


 萌恵奈の温かい唇を感じながら、俺はこの自粛期間。萌恵奈とイチャイチャすることに最大限注力しようと心に誓うのであった。

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