第3話

 萌恵奈との自粛期間中の同棲が決まり、早速萌恵奈が仕切り始めた。


「さて、晴れて同棲が決まったということで! 早速ルールを決めようと思います!」

「なんて、お前が仕切ってるんだよ……」


 呆れ交じりに言う俺。

 何か文句あると、視線だけで問うてくる萌恵奈。

 俺は、首を横に振り、異議はないと答える。

 満足したのか、早速萌恵奈がピッと人差し指を立てて話し始める。


「まず最初に……私との生活に集中してもらうため、スマートフォンは自粛期間中没収します!」

「ちょっと待て! それは流石に横暴すぎんだろ!」


 初っ端のルールからぶっ飛びすぎてて、思わず手で制してしまう。

 しかし、萌恵奈は素早いカウンターで手を前に出し、スマートフォンを渡すよう要求してくる。


「待て待て、重要な連絡ツールを奪い取るのは流石にまずいだろ……。せめて、夜は使わせてくれ」

「なんで? 別に連絡する人もいないでしょ、私はずっと一緒にいるわけだし。それとも何、やましいことでもしてるわけ?」

「いやいや、普通に友達からの連絡もあるかもしれないし。それに、今やってるゲームの100連無料ガチャがだな……」

「ゲームなんて別にやらなくてもいいでしょ? 私とイチャイチャしてればいいんだから」


 ヤバイ……萌恵奈の目からハイライトが消えている。

 こんなヤンデレ属性の幼馴染彼女俺は知らない!


「私とゲーム、どっちが大事なの?」

「それはゲ……じゃなくて、萌恵奈に決まってるじゃねーか」

「今、一瞬ゲームって言いかけたでしょ!?」

「そ、そんなことあるわけないだろ……あはははは……」

「言葉に感情がこもってないし」

「ぐっ……」


 ううううっ……同棲早々彼女が怖いよぉぉぉ!!!!

 スマートフォン没収とか、完全に浮気を疑われまくってる夫みたいになってるじゃん。

 すると、萌恵奈はご機嫌斜めな様子で、ぷくっと頬を膨らませる。


「あーあ、そうですか。どうせ私なんて柊太にとってはゲームよりも劣る粗悪品ですよーだ」

「そ、そんなことは言ってないだろ……」

「ふーんだ」


 ぷいっと顔を背ける萌恵奈。

 開始早々、いきなり彼女を怒らせてしまいました。

 どうしたものかと頭を抱えていると、ぷくっとむくれていた萌恵奈がちらりとこちらを見る。


「柊太、罰としてココにキスしなさい」


 自身の頬を指差す萌恵奈。

 えっ、なにそれどういうこと? 

 頬にキスしたら許してくれるの?


「早くしないと難易度あげるよ? 3……2……1……」

「あぁ、分かった。する! キスするから!!」


 俺は慌てて駆け寄っていき、萌恵奈の前に立つ。


「ほら……早くしてよ?」


 右頬を差し出してせがんでくる萌恵奈。


 俺は意を決して、萌恵奈の肩に手を置く。

 萌恵奈は一瞬ピクっと身体を震わせた。

 しかし、すぐに力を抜いて、俺からのキスを目を瞑って待っている。


「い、行くぞ……」

「うん……来て」


 落ち着け……頬にキスするだけだ!

 うわっ……萌恵奈の肌、きめ細かくて真っ白で柔らかそう……。

 俺は思わずごくりと生唾を飲み込んでしまう。


 あれっ、キスってこんなにドキドキするものだっけ?

 こんなに難易度高かったっけ? 

 あれ、あれれ?


「は、早く……」


 すると、萌恵奈も焦らされるのは恥ずかしいのか、頬を少し朱に染めた。

 それがまた、俺の心をきゅんと締め付ける。


 ヤバイ……萌恵奈が可愛すぎる!

 こんな俺が萌恵奈の柔肌に口づけしてしまっていいのだろうか……。

 いやっ、ここでしなければ、彼氏としての面子が保てん!


 頭と心の中での自分との葛藤を乗り越えつつ、なんとか顔を萌恵奈の頬に近づけていき……。

 チュっと軽く萌恵奈の頬に口づけをした。


「こ、これでいいか?」


 ふ、ふぅ……緊張したぁ……。

 にしても――萌恵奈の肌ふにってしてて柔らかくて……凄かった。

 嫌な汗がにじみ出る中、萌恵奈からの反応が無いことに気づく。

 

 視線をやれば、萌恵奈は身体を俺の真正面に向けて、唇を少しとがらせていた。


「ダメ……まだ足りない」


 萌恵奈は、顔を少し上げて目線を俺に合わせると、ゆっくりと目を閉じた。

 ここまで来て、萌恵奈が何を望んでいるのか分からないはずがない。

 俺の彼女は、絶賛マウストゥーマウスでのキスをご要望している。


 うわっ、萌恵奈の顔が目の前に……!

 ってか、キス待ってる顔、めっちゃ可愛いっ!

 ヤバイ、落ち着け俺。まずは……そうっ! この感動を目に焼き付けるんだ!


 しかし、萌恵奈のキス待ち顔を正面からじっと見るのは憚られ、俺には刺激が強すぎた。

 あまりの可愛さに何を血迷ったか、俺はポケットからスマートフォンを取りだして、カメラをセット。そして、気が付けばカシャリと一枚萌恵奈のキス顔をバッチリ撮影していた。


 カメラ音が聞こえた瞬間、ぱっと目を開けてあっけにとられていた萌恵奈は、状況を理解するなり、顔を真っ赤に茹で上がらせた。


「ちょっと! 何してんのよ!!?」


 萌恵奈は怒涛の勢いで、俺の手元からスマートフォンを奪い取り、すぐさま俺がカメラに収めたキス顔を削除しにかかる。


「あっ、何すんだよ!」

「それはこっちの台詞! 何てことしてくれたの!?」

「だって、あまりにも萌恵奈のキス顔が可愛かったからつい……」

「つい……じゃない!」


 萌恵奈は、俺の画像フォルダに保存された写真を削除すると、呆れたため息を吐いた。


「はぁ……せっかくのいい雰囲気が台無し」

「ご、ごめん……」


 ギロンと、鋭い目つきで睨みつけてくる萌恵奈。


「べーっだ!」


 可愛らしく舌を出してぷいっとそっぽを向いてしまう萌恵奈。

 イチャイチャするどころか、余計に彼女の機嫌を損なわせてしまいました。

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