第2話
インターフォン前で、カメラに向かって幼馴染の
「……何やってんの?」
『いいから早く開けて!! 荷物重いからぁ!』
「はいよ」
はぁ……っと俺はため息を吐いて、急かす幼馴染のために、玄関へ向かい鍵を開けてやる。
すると、怒涛の勢いで萌恵奈が玄関へと上がり込んできた。
萌恵奈は、これから登山にでも行くのかという大荷物を背負っているにもかかわらず、服装は白ブラウスに淡いピンクのフレアスカートにスニーカーという何とも似つかわぬ格好。
「はぁ……疲れた」
「……何、その荷物?」
「へっ? あぁ……服とかゲームとか必要なもの諸々」
どすんと重い荷物を廊下の床に置き、靴を脱いで家の中へと上がり込む萌恵奈。
「よいしょっと……ちょっと柊太。これリビングに運ぶの手伝って」
「ったく仕方ねぇなぁ……」
ため息を吐きつつ、渋々萌恵奈が持ってきた大荷物を一緒に運んでやる。
二人で持っても、かなりの重量感があった。
一体何が入っているのだろうか?
リビングに萌恵奈の荷物を運び終え、一息つくように萌恵奈はセミロングの茶髪髪をふわぁっと後ろに払った。
「で? この荷物は何?」
俺が呆れた視線で問いかけると、萌恵奈は得意げにむんと胸を張る。
「私、自粛期間の間、柊太と同棲するから!」
……はい?
俺がきょとんとした顔で首を傾げると、萌恵奈はにこっとした笑みを浮かべる。
「柊太だって、どうせ暇持て余してるでしょ? なら、しばらく一緒に暮らそうよ!」
「いや……なんでそういう発想になる!?」
思わず突っ込むと、萌恵奈はぷくーっと頬を膨らませて唇を尖らせた。
「だって……私達付き合ってるのに、恋人っぽいこと全然したことないじゃん」
「ぐぬっ……」
それを指摘されると、言葉に詰まってしまう。
そう、何を隠そう目の前にいる萌恵奈は、幼馴染のお隣さんというだけでなく、正式な俺の彼女でもあるのだ。
しかも、付き合い始めてから既に三年以上が経過している。
だが、萌恵奈の言う通り、俺達は他のカップルたちと違い、小さい頃からずっと友達感覚でいたせいか、恋人らしいことをほとんどしてきていない。
「柊太、性欲ないのかってくらい私に興味示してくれないし……」
「そ、それはほら、そういう雰囲気にならないからであって、興味が無いわけでは……」
「なら、普通柊太がリードしてくれるところじゃないの!? 私だって、本当は他のカップルみたいに柊太とイチャイチャしたいよ!」
普通のカップルなら、三年も付き合っていれば、お泊りやエッチなことをしていてもおかしくない。
けれど、俺と萌恵奈にとってイチャコライベントは今まで無縁の存在だった。
唯一キスをしたのも、デイズニーランドに行った帰り道でしたときの一回だけ。
しかも、もう二年前の話である。
というか――
「えっ、イチャコラしたかったの!?」
「当たり前じゃん! 普通付き合ってたら、好きな人とイチャイチャしたいに決まってるじゃん!」
「俺はてっきり、萌恵奈はあんまりくっついたりするのとか嫌なのかと思ってた」
「違うよ、むしろ逆。今までしなさ過ぎて、私の三年分の欲が溜まりにたまってる状態だっての! なんなら、爆発寸前だよ!?」
予想外な萌恵奈の発言に、俺は言葉を失う。
俺はてっきり、萌恵奈が今までと同じ関係性でいたいからずっとそういう行為を避けてきたのかとばかり……。
「言っておくけど、三年間でキスも一回だけとか、こんな状態付き合ってるって言えないからね!? これが柊太じゃなかったら、普通に別れてるよ!? むしろ、別れなかった私に感謝してほしいくらい!」
「それは、すまなかった……」
俺だって男だ。萌恵奈とイチャイチャしたくないわけがない。
四六時中出来るのであれば、イチャイチャラブラブしたいに決まってる!
「ということで、柊太には今まで私とのスキンシップを怠った罰として、今日から自粛期間終了まで、私と24時間ずっと一緒にイチャイチャ同棲生活してもらうから!」
「いや、待て待て! その前に、ちゃんと親御さんの許可取ったのか!? うちの両親、しばらく家に帰ってこないし、色々責任とか取れないぞ!?」
萌恵奈は一人っ子で、ただでさえ両親が過保護気質だ。
それもあり、隣に住んでいながらも、今まで一度も家に萌恵奈を泊まらせなかったのだから。
すると、萌恵奈はあっけからんとした表情でけらけらと笑い出した。
「そこは全然平気、平気! お父さんもお母さんも、『柊太君なら安心して萌恵奈を任せられる』って言ってたよ! あぁ、ちなみに柊太のご両親も大歓迎だって」
何ということだ。
今まで散々気を使っていたというのに、こんなにあっさり許可を得られるなんて……。
三年間の気苦労がバカみたいに思えてきた。
「ってか、柊太がうちの両親の目を気にしすぎなんだよ! 柊太となら、大概のことは大目に見て許してくれるよ?」
「そ、そうだったのか……」
意外と西野家に信頼を置かれてたんだな、俺。
「それにさ、うちの両親テレワーク出来ないらしくて。柊太の家にしばらくいた方が感染リスクも減るだろうって言ってた」
なるほど――確かに、俺の家なら両親も絶賛オフィスライフ中で帰ってこないので、感染が拡大するような事態もない。
ならば、萌恵奈の安全を考慮して、浅見家に居てもらった方が良いというのも一理ある。
「でも……既にどっちか無症状なだけでウイルス持ってたら、どっちも終了だけどな」
「その時は、一緒の布団で仲良く自宅待機すればいいだけじゃん! ずっと一緒に添い寝してぬくぬくしてられるし、一石二鳥だよ!」
「ウイルス舐めすぎだろ……」
さすがに感染しちゃったら、そんな余裕はない気がするけど……。
「とにかく、今日から私と同棲するんだから、しっかり私のこと愛でてね?」
上目遣いでうるっとした目で見つめてくる萌恵奈。
そのあざとさに、思わず狼狽える。
俺は、はぁっと大仰にため息を吐いて、諦めたように呟く。
「わかったよ。自粛期間だけだからな」
「やった!」
俺の許可を得た萌恵奈の表情は、どことなく嬉しそうで、こっちまで恥ずかしくなってきてしまうのであった。
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