Elnathー1ー

「拠点築城には成功していたようだな。それに、まだ落とされてもいない」

 岬に築かれた陣地には味方の旗がはためいている。

 安心して喜びの声を上げるキルクスとその子飼の連中に反して、ドクシアディス達はどちらかといえば無感動に白けた顔でその陣地を見据えていた。まあ、さっきの一戦で戦うことを選んだものの、まだ戦場というものの論理を自分の血肉には出来ずにいるんだろう。

 だが、それももう少しだ。最後の枷は、案外すぐに外れる。

 同族だろうと山ほど殺してきた俺が言うんだから、間違いは無い。


 南北に長い長方形の陣地は、大人の背丈の倍ほどの高さの木の壁で囲まれ、四隅と――おそらく、ここからははっきりと確認できないが、南側の門の所に櫓があるようだ。

 規模も小さな村よりも大きく、二千人が長期間戦えるだけの規模だ。

 援軍が無いことを知り、兵の損耗を避けて防戦に専念していたのか? だとしたら、相当頭の切れる指揮官だな。

 まあ、その方が戦う上では助かるが……。こちらの目的は勝利だけではない。出来れば、上手く騙くらかせる手合いだといいが、な。

 いつの間にか難しい顔をしていたらしく、俺の思考を読んだ顔のキルクスが、共犯者の笑みで訊ねてきた。

「夜を待ちますか?」

「……いや、敵襲と誤解される危険もある」

 おそらく攻囲陣を布いているであろう敵の事を考え――、だが、すぐにこちらの行動自体を味方が知らないことに思い当たり……、行動方針を決めた。

「では、すぐにでも」

 とのキルクスの問いに頷いて答える。

 敵の方は船の接近には気づいているだろうが、海岸線には兵を配置していない。おそらく、海岸線はアヱギーナ艦隊が健在だから警戒の度合いを下げているんだろうな。もしくは、艦隊の方に人員のほとんどを取られていて、多重的な攻囲陣を敷けるだけの兵士がいないか。

 問題は敵の陣容だが、薄く全体を包囲しているなら一点突破で、出入り口付近の重点防御だとしたら、警戒の薄い地域を突破して、壁を乗り越える。

 ただ、今後、主導権争いをする上でも、こちらの実力を見せる必要はある。合流後に、を先遣隊に吸収されては旨味が無い。

 多少血を流すことになったとしても、それは必要な投資だ。

「広い浜は、主力のために開けておこう。裏手側の砂地に乗り上げ――、ん? なんだ? 砂地の奥は小さな森になってるのか? ちょうどいい森の中を進んで守りの薄い場所まで移動するぞ」

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