第5話 4つの質問に答える

「はぁ!?」


 私は思わず叫んだ。


「ちょっと待ってくれ、今私がしたことと言えば、君に事件の話を愚痴っただけだろう? 一体君に何がわかるっていうんだ」


 私だって同じ情報を持っているはずなのだ。いや、彼よりも私のほうがこの事件に詳しい。


『まぁその前に、私の推理をより確実なものにするために、4つ質問をさせてくれ』


 マイクのむこうのスノウはにやにや笑っているらしい。なんだか腹立たしくなってきたが、私は質問に答えてやることにした。


『1つ目。被害者の遺体は、ドアに向かって倒れていたんだな?』


 私はびっくりした。そんなこと、いつ話しただろうか?


「そうだよ。部屋には1つしかドアがなかった。犯人はドアから入ってきて、被害者を殴り殺したんだ」


『被害者の部屋の間取りを教えてくれ。適当でいい。ドアと窓と、PCの位置さえ分ければいい』


「間取り?……そうだな。ちょっと待ってて」


 私は机の周りを見渡すと、適当なチラシの隅に間取り図を書いた。


「画像を送るよ」


 私はスマホで写真を送ると、スノウに送信した。


『ほほう。明日はキャベツの特売か』


 スノウが、背景に写り込んだチラシに反応した。


「どうでもいいだろ」


『部屋が汚い。折込チラシぐらい片付けろ。明日は燃えるゴミの日なんだろ、そう書いてある』


「うるさいな」


『まあ、間取りはわかったよ。この図から何がわかるかというと……被害者と犯人は、完全に向かい合ったということだな』


 私は送った画像の原本を眺めた。


「それにも関わらず、被害者に抵抗した後がない……?」



『さて、質問の2つ目。容疑者は被害者とフレンドだったんだな?』


「は?」


 私は聞き返した。


『つまり、何らかのゲームで、オンラインでフレンドだったか?って聞いてるんだ』


「ああ。そういうことか……フレンドだったよ。普段もリアルで遊ぶ以外に、何らかのゲームを一緒に遊んだ、っていう話は聞いている。被害者はデジタルのイラストレーターだったし、白井はSEだったからね。やっぱりIT関係には強かったんじゃないかな」


 なんだかんだでみんな結局ゲームをしてるんじゃないか、と思った記憶があるのでよく覚えているのだ。


『うむうむ、白井も被害者もみんなゲームをやっていた、ってことだな』


 スノウはなんだか満足げだ。



『さて、質問の3つ目だ。被害者宅に、犯人はどうやって入ったんだ?』


「ああ、それはカンタンだよ。この事件、密室殺人じゃないんだ。被害者宅には別の部屋があってね、その窓が侵入口だったんだ。空き巣がよくある手法だよ、外側から小さな穴をあけて、手を突っ込んで鍵を開ける。そこから侵入、無論指紋も何も残っていない」


『つまり、被害者宅の鍵の所持は重要視していないということだね?』


「そうだね。白井は被害者宅の鍵を持っていることが決め手で容疑者になったけど、そのカギ自体はそこまで重要視していないんだ」



『じゃあ最後の質問だ。被害者は、普段は眼鏡をかけていたんじゃないか?』


「うん、そうだね」


『でも、発見された遺体は、コンタクトをつけていた。……そうだね?』


 私はびっくりした。


「どうしてわかったんだ? そうなんだ、被害者は普段いつも眼鏡をかけていた。ブルーライトカットが入った、近眼用の眼鏡をね。でもどうしたわけだが、殺されたその日に限って、彼女は家の中でコンタクトをしていたんだ」


『警察は、そのことをどう考えている?』


「重森警部補は、男と会う予定があったから、眼鏡じゃなくてコンタクトにしてたんじゃないかって考えてるみたい」


『うんうん。でも、それにもかかわらず、被害者は化粧をしていなかったんじゃないか?』


 私は重ねてびっくりした。彼は実は、現場でも見てきたのだろうか。


「そうだよ。遺体は化粧をしていなかったんだ。だから人と会う予定もなかったはずなんだ。でも、どうしてコンタクトをしていたんだろう?」



『よしよし、もう結構だ』


スノウは満足げな声を出した。


「これで確信が持てたよ。山宮コノカを殺したのは……』

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