第4話 彼女は何度もあの部屋に
『そんなことで警察は、犯人を決めてしまうのかい?』
「仕方ないだろ、警察は他にも殺人事件を何千件も扱ってるんだ。無実の哀れなるゲーマーなんか、どうでもいいってことさ」
クソすぎる職場だろ、マジでクソ。
「大野はヘビーゲーマーでね。バイオクエストとか、夜通しでやるタイプさ」
ちなみにバイオクエストと言うのは、敵兵を撃ち殺しまくる、有名な3Dアクションゲームだ。警官の上層部どもが眉をひそめるタイプのゲームである。最近はVR対応版も出た。
『彼が殺したという証拠はあったのかい?』
「まず困ったことに、容疑者3人のうち、犯行可能なのが大野しかいないんだ」
私は眉をしかめた。
「容疑者その1の広川は、その週は東京出張に行っている。出張前日の夜のアリバイはしっかりしてるし、出張中も、ホテルを長い間不在にしたという報告はない」
『まぁその辺のアリバイはどうとでもなりそうだがね』
「容疑者その2の白井は、物理的に犯行が不可能だ。それはさっき説明したよね、凶器の鈍器を自由自在には操れない、って」
『……頑張ればできるんじゃないか』
スノウが応援するように言った。
「頑張るって、どういうふうに?」
『スキルを上げるとか、レベルを上げるとか』
「ここは現実世界だぞ……戻ってこい」
私はため息をついた。
『そうだ……』
スノウが、思い出したように声を出した。
『被害者の家から、犯人のものと思われるDNAが見つかったんだろ。それは誰のものだったんだ?』
「白井珠美のものだったよ」
私はふてくされた。
「DNA鑑定の結果は絶対じゃないんだ。あの部屋に白井珠美の毛根があったとしても、何の不思議もないさ、だって、彼女は何度もあの部屋を訪れているんだから」
そう、文鳥の世話である。
「でも、我が親愛なる上司の重森警部補は、見つかった毛根が『大野宗次』のものだった、ってことにしたいらしいんだ」
『証拠を捏造するのかい? DNA鑑定はもっと信用のおけるものだと思っていたけど』
「あんなもんいくらでも捏造できるよ」
と、日々試験管に入ったサンプルを見ている私はため息をついた。方法はいくらでもある。
「大っぴらに警察の証拠捏造を指示されると、こちらとしても気が滅入ってきてね。それに、同じゲーマーとして、大野のことはかばってやりたいんだが……」
『大野がやっていないっていう証拠はあるのか?』
「どうやら大野はオクテのタイプだったようでね。被害者の恋人と言えども、被害者の家に行ったこともなければ、家の鍵すら貰っていないって言っているんだ」
私は、なんだか大野が哀れになってきた。
「それに……大野はバイオクエストの大ファンだぞ。先週と言ったら、バイオクエスト4が発売された週じゃないか」
『あ』
私が言うと、スノウが納得した声を出した。
『それじゃあ、人なんか殺している暇はないな』
私と同じくゲーマーのスノウが言う。
「そうだよ。殺すとしても、何も先週じゃなくていい筈だ」
『うむ、可哀そうに。容疑者として拘留されているのなら、バイオクエストがプレイできないだろうな……』
しばらくの後、スノウは信じられないことを言った。
『とりあえず、山宮コノカを殺した犯人はわかったよ』
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