第2話 帰宅後はすぐゲーム 


 画面上の敵キャラの頭がはじけ飛んだ。


「上司クソうぜえ」


 深夜一時過ぎ、私は愚痴っていた。私が今日ログインしているのはFPSゲームで、ルールを説明すると、敵を撃ち殺しまくるゲームである。


『おやおや、君がそんなことを言うだなんて珍しいね』


 ボイスチャットの向こうから、フレンドの声が聞こえる。


『時雨君は、あんまり仕事の愚痴とか言わないタイプだと思ってたんだけど』


 彼が、私のハンドルネームを呼んだ。


「だって、マジでうぜえんだもん」


『わははは、何を言われたんだい』


「別に何言われたって構いやしないよ」


 最後の敵を撃ち殺すと、私はゲーミングチェアに寄り掛かった。私の周りには、うなりをあげる大きなPC、通話用マイク、コントローラー、ゲーミング用マウス、マルチディスプレイ、それなりの機材がそろっている。


休日は家から一歩も出ずにゲームをしていることが多いし、ゲームに熱中しすぎて気が付いたら朝、なんてこともザラだ。私はゲーマーなのだ。


 そう、あの事件の容疑者のように。


「確かに暴力的なゲームは好きだし、過激だし、何時間も部屋に閉じこもって、わけのわからないゲームをしている姿は、ああいう機械音痴の世代からは不気味に移るだろう。だけど……」


『何が言いたいんだい』


「上司が冤罪を仕立て上げようとしてるんだ」


『ほう』


 私はパソコンの画面を眺めた。フレンド『スノウ』はオンラインだ。こういった対戦ゲームでは瞬時に連絡を取り合うのが必要なので、ボイスチャットで戦況を語り合うことが多い。


 スノウは私のフレンドで、付き合いはだいぶ長い。ざっと数えて、もう8年以上の付き合いになるだろうか。下手なリアルの友人よりは信頼のおける相手である。


 が、彼がどこに住んでいるのかは知らない。本名も知らない。しかしネットの付き合いとはそういうものである。


『聞かせてくれないか、その話を』


 ヘッドホンの向こうで、彼の声がする。しかし、いくら私とて科学捜査班のはしくれ、見も知らぬネットの相手に、職業上の機密を漏らすことはできない。


……はずだった。



「ふむ、じゃあどこから話そうかな」


 対戦ボタンを押すと、私はヘッドセットのマイクの位置を調整した。


「まぁ、よくある話だよ。女が殺されたんだ」


『場所は?』


「自宅。撲殺。頭部を何度も。現場に犯人とみられるものの毛根が落ちてきてね。そのDNA鑑定が私の職場に回ってきた、ってワケ」


 私はロード画面に入ったディスプレイを眺めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る