鑑識ゲーマーの守秘義務放棄
時雨夜明石
フレンドはオンラインです
第1話 鑑識の昼ごはん
我々科学者は、白衣を着たままランチを食べる。そして、今日の私の昼食はカップラーメンだ。メニューは以上。はい解散。
私だって、家に帰ればただの一人暮らしのしょぼい一般人なのだ。いくら科学捜査班とはいえ、毎日ビーカーに入った味噌汁を食べて生きているわけではない。
実験が長引いてしまったせいで、私の昼休憩はかなり遅れた。事務所にひと気はなく、電気もついていない。みんな外回りに行ったのだろう。
いや、事務所には一人だけ人がいた。デスクの向こう側には、上司である重森警部補が座っていた。ここからではよく見えないが、彼が食べている弁当は、私のものとは違い、愛情のこもった手作り愛妻弁当であるようだ。まず弁当箱が凝っている。
しかしなんだか気まずい。上司と二人っきりで昼飯か。なんか話しかけられるだろうな。嫌だなぁ。
案の定、私は重森警部補に話しかけられてしまった。
「生物科学捜査の子だったかね」
彼は、私の白衣をしげしげと眺めているようだった。紺の警官服がたくさん闊歩する建物の中で、我々の班の白衣は、嫌でも目立つのだ。
「ええ、はい。生物科学捜査班の所属の、斎藤といいます」
私は自己紹介をした。重森警部補は、今年の春から異動になってきた警部補だ。私を知らないのも道理だろう。逆に、私も警部補のことは何も知らない。
「ふむ。何年目だね?」
「今年で4年目になります」
「まだまだ学生気分が抜けないだろう」
いやいや、4年も働いてんだぞお前、この安月給で。そりゃあお前は何十年働いて警部補ポストに入れたんだろうが、確かにお前から見たら若葉マークのクソガキかもしれないけどな。
「はい、日々勉強させてもらっています」
私は腹の底とは逆のことを言った。警察は縦社会だ。正確に言うと、私は科学者であって警官ではないのだが、郷に入っては郷に従え、である。
「やはり最近の若い子は、休日にテレビゲームとかをするのかね」
やれやれといった調子で言われて、私はぎくりとした。この口調は否定的なトーンである。
「私は、あんまりゲームはしないですね」
と、先日のネットゲームアクセス時間総33時間を超えた私は答えた。
「あんな光る画面に向かって、決まりきったことをやるのは、何が楽しいのかよくわからん。人を撃ったり、過激な内容のゲームが多いのだろう? 確実に悪影響があるだろうね」
重森警部補は何か悩み事があるのだろう。重いため息をついて、最近の若い者は、と呟いている。
「全く、最近暴力的な事件が増えているのもうなずけますね」
私は適当に話を合わせる。ここで討論していたら、私のカップラーメンが伸びてしまう。ランチタイムは貴重な休み時間なのだ。
「なあ、斎藤君」
と、警部補は私に話しかける。
「やはり、あの事件は『彼』が犯人に間違いない。彼は、そういう暴力ゲームが好きだったと聞く」
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