『特急電車』 後編
特急電車は止まったのです。
薄暗い、地下ホームの一番、端っこの壁の天井との境に近い当たり。
薄暗く、人目を惹きません。
そこには、確かに、人の足と思われるものが履いているのだろう、黒いハイヒールのかかとだけが飛び出ています。
靴だけが埋まっていると言う可能性もなくはないですが、いまの状況から考えると、その先に本体が埋まっていると思う方が自然だったのです。
ぼくは、女性のハイヒールなんて、気にした事もないから、良くは分からないのですが、なんだか、気になる感じがしたのです。
駅長さん、助役さん、あの駅員さん(係長さんだそうです)、それに、『ぎわ~~~』のお姉さんと、ぼく。
本社の偉いさんは、まだ到着しない。
駅前の交番の巡査さんは、『本部が来るまで動かないでください』と、さかんに言っていたのですが、『あんた、命より、上司が大事か?』と駅長さんから言われてしまって、あとは、黙っていました。
小型重機は、慎重に周囲を崩し、脚立を組んで、駅員さんたちが壁の足のあたりを囲んでいます。
壁そのものは、実は、あまり、頑丈ではないらしく、わりと、ぼろぼろと崩れます。
『よくこれで、シェルターなんて言ってたわね。ぎわ~~~!』
お姉さんが呆れました。
なので、意外と、はやく、壁は崩れてゆきます。
『待った待った! なんだ、こりゃあ。』
金属質の、それこそ、むかしの原爆とかの外周みたいなカーブをした物体が見えました。
『ばくだんか!』
助役さんが叫びました。
『中止、中止。こりゃあ、しろとの手が及ばない物かも。しれませんね。』
駅長さんが、なんとも、じったりとした声を出しました。
『くそ~~~~~、ぎわら~~~~~!』
お姉さんが、ぼくのセリフを発展させて言いました。
そこに、本物の、レスキュー隊が到着しました。
『後は、任せてください。』
さらに、三分刈りの黒メガネで、紺色のスーツ姿、という、明らかに『治安調査局』の人物と思われる人もやってきましたが、一喝のもと、現場を手中に収めようとします。
『下がれ下がれ、さがれおろう!』
その部下が5人くらい、現場を封鎖しようとしています。
『自分の指示に従っておらおう。しろとたちは、下がれ。きさまも。』
彼は、ぼくの胸をどんと突きまました。
軽い一撃のはずなのに、ぼくは、すっ飛びました。
『あんた、やり過ぎでしょ。ぎわら~~~~!!』
お姉さんが叫びました。
男は、じろ、っと睨んだだけです。
『くそったれ』おねえさんが、毒づきました。
レスキュー隊の『指令』らしき人が、割って入りました。
『人命救助が先だ。きさま、どこの手先だ。じゃまあ、するな。』
『人命?この状況でか?まず、こいつを除去する。入るな。おれが、一番だ、そう決まってる。』
そこに、宇宙人状態の、『防衛軍』らしき、完全防備服を着こんだ一団が、どかどかと、雪崩れ込んできましたのです。
銃も、持っています。
怪しい、機器が、多数、持ち込まれています。
彼らは、ホームの端っこ近くに、天上からグリーン・シートを一面かぶせて、見えないようにしました。
『君たち、レスキューは、こちらの指示に従っておらう。ここは、封鎖だ。しろとは、出ていきなさい。』
黒メガネが言いました。
『あたしは、駅長です。責任があります。』
『駅長の分際で、関わる事ではない。』
『うん、まあ!』
『まあ、まあ、駅長、ほら、あの・・・カメラがあります。ああ、君たち、撤収、待機。』
『カメラ』のとこだけは、小声で言いながら、助役さんは、ぼくたちを駅長室に連れて帰りました。
『あの天井裏に、隠しカメラがありますから。ほら、気が付いてない。何やってるんだろう。すっごく、よく見える。お値段、高いのにしといて、良かったですな。』
俺の、功績だあ、という感じで、助役さんが言いました。
『あいつら、人よりも、あの、ぶくぶくしたばくだんみたいなのが大事なんさ。ぎわ~~~!』
ぎわー、は、完全にお姉さんに乗っ取られた感じです。
『なんだろう、あれは?』
ぼくが、言いました。
やがて壁の奥から、やはり、爆弾としか思えない、丸い物体が、ついに、姿を現しました。
しかし、羽とか、そういうでっぱりはありません。
まっ平らな、黒い玉です。
『やっぱり、そうか。ここに、あったか。』
お姉さんがつぶやきました。
『え? ご存じなんですか?』
『研究してたんです。あれは、『次元破壊爆弾』の試作品です。戦時中に、防衛隊が開発してました。あれが、一連の事件の犯人ですよ。まだ、完全には、稼働してないけど、予備段階になっているんです。この前の地震あたりで、セーフティー回路が壊れたか、スイッチが入ったか。どっちか。最初は、近辺の空間に異常を起こします。やがて、効果の範囲が広くなり、最終爆発すると、推定ですが、おおおそ10キロから15メートル範囲の物質を、どこかよそに、転送します。ばらばらにしてね。戦争末期に、行方不明になりました。父が、その開発に関わってましたが、行方は知らないらしい。あたしは、そこを、探していました。ずっとね。まあ、自業自得なんですよ。ぎわら~~~。くそ。』
『あ、あ、人が、出てきた。引っこ抜かれてる。やはり、女性の遺体みたいですな。あらあ・・・・なんか・・・・あえ、どこ行った?』
お姉さんが、いつのまにか、消えました。
『おトイレかしら。』
と、ぼくは言いました。
しかし、駅の隠しカメラは、ついに、しっかりと、とらえました。
壁から出てきた人は、明らかに、お姉さんです。
その後、彼女の消息はわかりませんが、もう、おかしな現象はなくなりました。
************** 💣 おしまい
『小さなお話し』 その63 やましん(テンパー) @yamashin-2
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