22.おみやげどころか外食すら出来ない。ギルドに文句言ってやる。
・冒険者ジズ視点
ヴェガ王国の王都は国と同じヴェガという名前だ。
王都には、巨大なギルド区画が存在する。
俺のいた町フィールと同じくらいの広さだ。
ギルド区画には、ギルド関連の施設、商店が建ち並び、区画の中央にはギルドタワーがそびえ立つ。
そのギルドタワーの中にある一室、会議室にて。
俺ジズ、そしてベヒムス、リヴァイアの3人組はギルドマスター達から質問攻めにあっていた。
西のギルドマスターが女性、それ以外はむさ苦しい男性だ。
「で、その銀色のトカゲというのは?」
「はい。そのまま見た通りです」
東のギルドマスターに対して俺が答える。
「それじゃ分からないぞ~。
ちゃんと特徴を詳しく教えるんだぞ~」
「遠くから見ただけだしねぇ。でもデカかったわ。
確か10mくらい。イビルホーネット4、5匹分くらいの高さよ」
「あぁ、それと2本足で立って走ってたっけか」
南のギルドマスターに対してリヴァイアとベヒムスが答える。
こんなふざけた奴でも一応ギルドマスターだ。
あまり失礼をすると首が飛ぶ。
「2本足……トカゲ……リザード種やレックス種?」
「ふむ」
西と北のギルドマスターは言いつつ考え込むように目を閉じる。
一体いつになったら解放されるんだ。
かれこれ2日くらい会議に付き合わされているぞ。
滞在費は向こうが持ってくれているのだが、俺達は王都で贅沢できるほど余裕はないから、おみやげどころか外食すら出来ない。ギルドに文句言いたくなる。
なのでストレスが溜まっている。くそ、王都の成り金どもめ。
「北のギルドマスター、あなたの管轄で起こったことでしょう、今回のAランク10人の養殖が死んだのは」
「総長。わたくしは、冒険者となり使命を全うした彼らを誇りに思っている。
養殖などという忌まわしい呼び方をしないでもらいたい」
総長と呼ばれる男は総ギルドマスター。王様の次に偉い。
にしても、相変わらずイラっとくる言い方をする人だ。
冒険者には2種類いる。自分の腕のみでそのランクに昇りつめた者。
そして、国の庇護のもと、国の抱えるダンジョンマスターの力で経験値ドーピングでランクを急速に上げた者。
前者を天然、後者を養殖と俗に呼ばれている。
魚じゃないんだから、そんな呼び方しないで欲しい。
今回亡くなったAランク冒険者10人は、養殖と呼ばれている者たちだった。
だが俺は知っている。
彼らはランクを急速に上げた後もなお、町のために尽力していたことを。
危険なダンジョンをたくさん征圧し、未来の英雄候補と呼ばれていたことを。
稼いだ金をほとんど、恵まれない子どもや修道院へ寄付していたことを。
俺は彼らを尊敬している。亡くなった今でも。
他の者だって、言いはしないが、憧れを抱いていた者はたくさんいたはずだ。
「養殖どもはまた代わりを育てることにして、今回は」
ドン!!!
俺とベヒムス、北のギルドマスターが机を叩く。
「総長。わたくしは仲間を失い、少々気が立っている。
うっかり腰の剣に手が伸びそうなくらいに」
「落ち付け、北の。喧嘩してどうする」
「そうだぞ~」
東と南のギルドマスターが、俺達の所属する北のギルドマスターをなだめる。
「ギルドで死者が出ることなぞ日常茶飯事でしょう。北の、その程度で怒るとは、そして怒りを押さえられないというのなら、貴方はギルドマスターに向きませんよ?」
「あわわ……」
総ギルドマスターは何でもないことのように言う。
西のギルドマスターは険悪な空気に慌てふためいている。
やはりこの会議はストレスが溜まる。総ギルドマスターは俺達冒険者を使い捨てぞうきんみたいにしか思っていない。
「それに私に対して怒るというのであれば、それは見当違いでしょう。その怒りは、議題のダンジョン、
突如現れた塔のダンジョンへ向けるべきでしょう」
「悪いのはダンジョンのダンジョンマスターだぞ~」
そうだ。あのダンジョンさえなければ10人は死ぬこともなかった。
総ギルドマスターはムカつく奴だが、言ってることは至極正しい。
「なので、ダンジョンマスター使いを1人派遣しましょう。
ダンジョンマスターを25人付けてです」
「?!」
「そ、総長?!」
「へ~、総長は本気だぞ~?」
「はわわ……」
ダンジョンマスター使いとは、魅了魔法で骨抜きになったダンジョンマスターを使役する役職。
ダンジョンマスター・テイマーとも呼ばれたりする。
国に3人、男性1人女性2人だけの、対ダンジョンマスターのエキスパート。
彼女らなら、中型ダンジョンだろうと時間をかけて攻略できるだろう。
「入りなさい、メルシィ!」
はっ! という声とともに、会議室の扉が開く。
聖騎士の鎧に身を包んだ、凛とした金髪の女性が現れる。
「ダンジョンマスター・テイマーのメルシィです!」
メルシィは片膝を地面につけ、頭を下げる。
「メルシィと、そこの3人の冒険者によって、かのダンジョンへ正義の鉄槌を下します!
賛成する者は起立と拍手を!」
メルシィ以外の会議室の全員が起立し、拍手をする。
ダンジョンマスター・テイマーがいれば、さすがにあのダンジョンも終わりだろう。
25人のダンジョンマスターを連れるということは、強力なダンジョンアドバイザー25人が戦力に加わるということだ。
さらにダンジョンマスターは、DPという物を使って様々なサポートを行うことが出来る。
それこそエリクサー連打、みたいな。
もはや負ける姿が想像できない。
悪しきダンジョンめ、覚悟しろ。
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