今日の昼飯に作った天ぷらうどんがおいしくなかったはなし
たかぱし かげる
なんてこったい
なんとなく天ぷらうどんが食べたい気分だった。
いや、おいしい天ぷらうどんが食べたい気分だった。
天ぷらうどんは、おいしい。というか、天ぷらおいしい。うどんおいしい。おいしいとおいしいで大変おいしい。
さくさく天ぷら。思い浮かべているのはかき揚げだ。
玉ねぎの甘味、にんじんの青味。しめじの旨味。さくさく食感。出汁のきいたつゆにひたってふにゃふにゃうまい。うまい。のどごしつるつるのうどんを煮たったつゆにぶちこみ、かき揚げをのっけてさくさくふにゃふにゃはふはふ食うのだ!
と心に決めた。
さて。我が冷蔵庫に材料はあるだろうか。別に贅沢は言わぬ。
冷凍のうどん、讃岐って書いた袋に入ったやつがあった。讃岐うどんと他のうどんの違いなど知らないが、どちらにしろ十分うまい。採用。うどんスープの素もいつものがある。
実は湯がいてあげたうどん麺に天かすと醤油ぶっかけて食べるだけも好きだ。でも今日は天ぷらうどんが食べたいのだ。スープの素を使う。
かき揚げは。冷凍のかき揚げとかのストックがあればそれをレンチン♪するだけでいい。その辺私はこだわらない。冷食うまし。しかし残念なことに冷凍かき揚げはいない。残念。冷凍の鶏むね天ぷらシソはさみはいた。これもうまい。うどんにのっけても、まぁうまい。
しかし高まってしまったかき揚げボルテージの前には少々役者不足の感が否めない。安全パイをとるなら下手なことをせずに鶏天にすべきだろうが。
かき揚げ食べたい! かき揚げ食べたい! おいしい! かき揚げが! 食べたい!
よし、作ろう。かき揚げぐらい作れる。
玉ねぎ、にんじんは問題なくある。そのぐらいの野菜はある。かき揚げに使う野菜ってのはなにがあったかよく思い出せないが、恐らく思うに玉ねぎとにんじんだ。違うというやつがいたとしても、うちのかき揚げは玉ねぎとにんじんなのだ。そう有史以前から決まっているのだ。異議は受け付けない。
適当にあさっていると、冷凍庫にしめじを発見。この間買い貯めて冷凍しといたやつだ。そう、かき揚げにはしめじが入っているものだ。たぶん。いや、絶対。そういうものだ。
そしてふと思い出す。エビ。干し桜エビ。去年の年越しそば用に奮発して買った、しかし台湾産の干し桜エビ。その後使ったという記憶がなく、どっかに落ちているに違いない。
冷蔵庫のドアポケットを漁ると、案の定一番下から出てきた。よし。なんか封が開いた状態で出てきたが。臭いを確認。腐ってない。おーけい。
玉ねぎ、にんじん、しめじ、桜エビ。具材は揃った。ほぼ完璧なかき揚げメンバーだ。そう信じる。玉ねぎとにんじんは適当に細長めに切る。
ところでかき揚げは食べたいが、揚げ物はしたくない。片付けが面倒だ。大丈夫。フライパンで揚げ焼きってやつにすればいいのだ。っていうか、焼けばいいだろう。だいたいできるものだ。フライパンってやつは、なんかすごいのだ。なんでもできる。フライパンに不可能は、ない。本当だ。
とりあえず冷凍のうどんを電子レンジへ放り込む。誰かが言っていた。先に電子レンジで少し解凍すると時短で簡単になる、と。よく分からないが、60ワットで……40秒でいいか。
小さいボウルに小麦粉を溶く。ここで問題が発生。小麦粉のストックが少ない。目分量で小さじ一杯。具材はそこそこの量を切ってしまった。若干小麦粉が足りない気がする。新しい小麦粉の袋を開ければ追加も可能だが。めんどい。もとい、少量の小麦粉を得るために大袋を開けるのは気が引ける。まぁ少なくてもいいか。フライパンの力を使えばなんとかなる。
小麦粉をあけたボウルに水を適当に入れる。溶いてしゃび具合を確かめる。……んー。ちょっと水が多いか? しゃびしゃびだ。いや、しかし。小麦粉の量が少ないのだ。少し薄いぐらいにして具材にまんべんなく絡めなければならない。むしろこれぐらいでいいのだ。火が入れば水分は飛ぶ。固まるはずだ。科学的に考えて。
ボウルへ具材をすべてぶちこみ、よく絡める。どうせ余っていた桜エビだ、これは大量にいれる。赤いエビが美しい。これはおいしいかき揚げになる予感がする。楽しみだ。
うどんスープの素の指示に従い、片手鍋へ水を250cc入れて沸かす。お湯になったところで素を溶き、麺を入れて煮立たせればだいたいかけうどんだ。後ろでピーピーわめいている電子レンジから解凍されたうどんを取り出す。ん、解凍されて、ないな。まぁいいだろう。熱したつゆに入れて火にかければ解ける。こうなると電子レンジにかけた意味がよく分からない。どこが時短だったのか。電気代の無駄だ。
スープ準備の進む横で、油をひいたフライパンを火にかける。本当に揚げ焼きにしたいのなら1センチ程度は油を入れるべきだが。フッ素コートが駄目になりそうだからな。揚げ焼きはしません! やや多目に油をひいて良しとする。
勢い。料理のコツは勢いだ。恐れることなくフライパンへボウルの中身を投入する。あくまでかき揚げなので、中央に山に固めて焼かなければならない。火は強火にしてはならない。弱火で蓋をして火を通す作戦だ。しばらく放置する。
鍋がお湯になった。スープの素を入れてとく。が、いま早くもうどんを入れたらかき揚げより先にできてしまう。のびたうどんは嫌だ。火を止め、うどん麺待機。
フライパンの蓋を取ると、なんとなく下は焼けたような気がする。よし、ひっくり返し時だ。料理は勢い。フライパンを煽ってひっくり返す。焼けて固まったはずのかき揚げから飛び散る玉ねぎ。なぜだ。計算ではくっついているはずなのだが。小麦粉が足りなかったせいかもしれない。しかしここで慌てるのは素人だ。玄人は何食わぬ顔で落ちた玉ねぎをのっけて「くっつけ」と唱える。そうすると、あら不思議。ひとかたまりのかき揚げに見える。完璧だ。
再度蓋をして火を通す。玉ねぎが生焼けだと辛くて泣きたくなるからな。食べたいのは甘い玉ねぎだ。
しばし火を通したのち、蓋を開けてもう一度ひっくり返す。もう蓋はしない。火も中火にし、水分を飛ばしてかりっと仕上げる。
片手鍋も火にかけ、沸いたところで凍ったうどん麺を投入。直に解けて麺はほぐれ、あつあつのうどんに近づいていく。
フライパンのかき揚げもすでに待機状態だ。ちと片面が焦げて黒くなりかけているが、それだけカリカリになっているに違いない。ちょっと焦げるぐらいなんてことはない。え、それはかき揚げでなくかき焼きだと? 知らん。これはかき揚げだ。
うどんができた。鍋にかき揚げを加える。フライパンから滑り出したかき揚げは……あれ、ちょっと柔らかい?
やや想定と違うようだ。だが、これはおいしいかき揚げうどんだ。期待は否応にも高まる。
では、いただきます。
おかしい。おいしくない。
なぜだ。
うどんはおいしい。つゆもおいしい。けど、かき揚げが……。いや、かき揚げもどきがおいしくない。
なんだろう。玉ねぎがしゃくしゃくからい。にんじんは少なくて存在してない。桜エビ。どうやら去年開封の干しエビは風味が飛んだらしい。なにやらカスのような味がし、ただただ甲殻類の食感をもたらす。冷凍されていたしめじは旨味が増しており、というか一人だけ旨味の主張がすげぇ。
まったくかりかりに仕上がっていないかき揚げはつゆを含むまでもなくでろでろしており、つゆにほどけていく気配もない。しかも中が。ぐちゃぐちゃしている。かろうじて火は通ったものの、かろうじて火が通っただけのようである。自分でもなにを言っているのか分からない。
具材の味の調和は微塵もなく、喜ばしき食感も存在せず、とにかく夢に描いたかき揚げはこれじゃなかった。おいしいうどんの上に要らんもんがのっている、としか思えない。
仕方がない。とにかくこのなんかを食べきって、うどんを救出しなければならない。それがこいつを生み出した私の取るべき責任である。
泣きながら食べた。
私は、おいしいかき揚げうどんが食べたかったのだが。
今日の昼飯に作った天ぷらうどんがおいしくなかったはなし たかぱし かげる @takapashied
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