第7話

諒の理性というタガは、もうとっくに外れていた。だからと言って乱暴に、力強くという訳ではなく、とても丁寧に、咲希のカーディガンのボタンを一つづつ外していた。諒は今、人生で1番幸せだった。幸せが顔から溢れるように、恍惚とした表情を浮かべている。

咲希は余韻でうっとりとして回らない頭でどうすべきか考えるのに必死で、されるがままに諒のボタンを外す手を目で追っていた。口を開いても出す言葉が考えつかない。教室は、とても静かだった。

確かに今咲希は諒と付き合っていて、カップルなのだから、"そういうこと"をするのは何ら不思議ではない。でも、早すぎる、と咲希は思った。ほんの数分前に付き合い始めたこともあるが、なにより咲希も諒もまだ15だ。人類が、日本人が平均して何歳で初体験を済ますのか、咲希は全く知らないが、咲希のこれまでの人生からすると想像もできないくらい早い。怒涛の展開すぎる。

今、この場所で、咲希と諒はセックスをする。諒に抱かれる。処女を失う。諒がワイシャツのボタンを外す度に、それはヒシヒシと現実感を増していった。

全てのボタンを外し、咲希の地味な下着と白い肌が露になる。愛する人が頬を赤らめて見せる無防備な姿は、諒にはたまらなかった。諒はそのすべすべで綺麗なお腹に触れ、ニコニコと笑う。咲希は普段他人に触れられることの無いお腹がぞわぞわして、思わず息を短く吸う。身体が熱い。硬直する。それが恐怖によるものなのか興奮によるものなのか、咲希にも分からなかった。

「こわい?」

諒がふいに尋ねる。とても優しい声色だった。

「そうだよね。こんなところで初体験は嫌だよね。床、固いし。」

諒は軽く深呼吸をして続ける。

「じゃあ今日は挿れないから!」

諒は微笑んで下着のホックに手を回してプツリと外す。

「違う!」

咲希はやっと声を出した。緩んだ肩紐の代わりに自身の下着を両手で抑える。

「まだこういうことは私たちには早いと思う。諒くんは優しいし、嫌じゃないんだけど、まだ…早い………あと、恥ずかしい……」

空気に晒された肌が、諒の視線も相まってそわそわしてくすぐったい。諒は少し離れて、ワイシャツを元に戻して肌を隠した。ひとつ、大きな深呼吸をしてから口を開く。

「ごめん……咲希ちゃんがかわいすぎて理性が……本当にごめん。咲希ちゃんが怖くないように、恥ずかしくないように、これから少しずつ慣らしていくね?」

「…うん。」

諒に優しく微笑まれて気を許したが、"慣らす"という提案を肯定するべきなのか、否定するべきなのか、咲希はよく分からないまま返事をした。

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