第6話

放課後。咲希は諒のロッカーの整理を手伝っていた。昨日は教室に1歩も出入りしていなかったので、書類や大量の教科書などを一度に受け取ったためだった。咲希が自分のロッカーも確認し、勢いよく閉める。向かいの机に諒が腰掛けて座っていた。

今日からしっかりと授業が入っており、窓からは夕日が射している。先程最後の一団が教室を出ていき、ここには2人だけだった。

「昨日の話なんだけどさ、」

咲希は今がいいタイミングだと思い、話を切り出す。単刀直入に行こう、と咲希は決心した。

「なんで、キスしたの?これからもやもやしながら過ごすのの嫌だから理由を教えて欲しい。」

涼の瞳が揺れる。そして決心したようにこちらを、真っ直ぐに見つめてくる。

「好きだから。俺、咲希ちゃんのことずっと好きだった。」

咲希は思わず下に目を逸らす。覚悟はしていた、あくまで予想はついていたことだったが、いざ言葉にされると恥ずかしかった。

「物心ついた時から好きで、中学生のころも咲希ちゃんのことずーっと好きだったんだ。」

決まったセリフを話すように、諒は咲希を見つめて淡々と続ける。机をおり、真っ直ぐに立つ。

「だから、俺と付き合ってください。」

こうなることも予想はついていたのに、咲希はその返事をどうするのか考えていなかった。

「正直、まだ分からない…まだ、話すようになって全然経ってないし……」

躊躇いがちにそう言う。緊張で頭が回らない。

「俺が咲希ちゃんを一生幸せにするよ。誰よりも大切にするし、1番咲希ちゃんのこと知ってる。絶対に咲希ちゃんに悲しい思いはさせない。付き合ってください!!」

そう、宣言されて、王道のプロポーズにも似た宣言に咲希は圧倒される。中学生のときもまともな恋愛をしてこなかった咲希には、告白にOKする基準もいまいち分からなかった。両思いかというほど好きかはまだ、分からないし、断る理由も見つけられない。

ただ、諒なら自分を幸せにしてくれる、そんな気がした。小学生までの長い付き合いがそれを証明しているように思える。咲希も、諒を好きになる未来がみえる。ふと、昔咲希は小学生ながら諒に淡い恋心を抱いていたことを思い出した。

諒と付き合って、絶対に悪い方向にいくことはないだろう、そう直感する。

「うん、分かった。諒くんなら、多分大丈夫な気がする―――」

フェードアウトするように、咲希の言葉は語尾にいくにつれて小さくなっていく。恥ずかしかった。自分でも顔が赤くなっているのがわかる。

「ありがと。咲希ちゃん、かわいいよ。」

突然ド直球に褒められ、真っ直ぐ見つめられると、やはり照れる。照れ隠しに笑って、目線を下にやった。

ゴンという鈍い金属音とともに、咲希は背にしていたロッカーに押し付けられる。いわゆる壁ドンというやつだ、と思う余裕もなかった。

諒の理性のタガはカタカタと音を立てて外れかけていた。頬を赤らめる咲希を、諒は至近距離からまじまじと見つめ、よく堪能してから言う。

「キスしてもいい?」

「え?まだ、ちょっと、早いかも」

咲希が言い切る前に諒は咲希の首に手を回し、唇を被せる。咲希は両手で持っていた鞄を落とす。諒がこんなに積極的だとは、想像もしていなかった。それともカップルの間ではこれが、普通なのだろうか、様々な考えが頭を巡ったが、咲希は無理に抵抗することもなかった。少しして慣れない行為に咲希が少し口を動かすと、舌が、入り込んできた。閉じかけていた目を見開き、また緩める。驚いた。気持ちが良かった。諒に優しく触れられた部分がぞわぞわとしてもどかしく、そして気持ちいい。

諒は顔を離し、ゆっくりと息を整えながら咲希の顔色を伺う。無意識に潤んだ瞳で諒を見つめ、同じように息を整える咲希の口には糸が引いていた。今まで見たことの無い咲希の色っぽいその表情に、視線に、諒は今までになく興奮していた。咲希はぼんやりとしてその場にストンと座り込み、ロッカーにもたれる。

「咲希ちゃん」

名前を呼び、諒は咲希をぎゅっと抱きしめる。咲希の鼓動が直に伝わってくる。

「ごめん。俺、多分変態なんだ。」

耳元で、諒が呟く。先程からうるさいくらいバクバクと鳴る心臓音が体内で反響して、咲希は声を聴くだけで精一杯になっていた。

「咲希ちゃんの笑顔も、声も、匂いも、視線も、性格も、昔から今まで、全部、全部好き。だから―――」

諒は咲希の肩に腕を残したまま体を離し、優しい笑顔を見せる。

「咲希ちゃんを、成長した咲希ちゃんを今、

犯したくて犯したくて、仕方ないんだ。」

咲希はこの一言で、たった一人の幼馴染みが、初めてできた彼氏が、本当にやばい奴なのだと、そして変態なのだと確信した。

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