第1章 - 最後の世界 XXXXX -

第8話- プロローグ second -

 うぅ~ん、と少女は尻餅を付きながら両手を上げて背伸びをする。

 波打つ長い水色の髪が照らされる事のない常闇で、小さな少女はうっすらと目を覚ました。目をこしこしと擦り、大あくびをした後、少女は小さい身体を立ち上げた。


 そこは虚無の空間。決して誰一人立ち入ることのない、心、否、意思の心底。

 少女が目にする事ができるのは、ある人物が目視した世界を客観的に移した世界だけ。

 過去に自由に飛び回っていた世界、そして、少女が生まれた世界とは別の世界の様子を、此の空間で見ていた。


 あれっ、と少女は何か疑問に思ったかのように首をこくっと傾げる。瞬く間に、紅玉の瞳をぱっと開くと、女の子らしい小さい頭を抱え、そのままぷにぷにの頬っぺたに両手を添える。


 また戻ってる?、と少女はぼそっと残念そうな表情をして呟いた。


 十数年間、心底に住まう少女は、異常事態を家主に伝えようとしてコンタクトを取る努力をしたが、彼の者から反応は全くない。幾度も焼き殺されて亡くなる家主を、助けようと努力している人が不憫でならないと、少女は思う。

 少女はいつも通り、家主の身体の一部を借り、世界の水の流れから未来を詠む。


 ――……っ!


 少女が水によって詠めた世界は悪しき者によって淀まれていたのだ。

 少女が、意識の心底に眠ってから十数年、家主が初めて此処の世界に踏み入れた時と比べて、状況は芳しくない。

 何度目だろうか、或る期限を経過すると、深い眠りにつき、また同じように目を覚ます。

 そして、また同じような夢を見るのを、少女は気づいていた。

 否、気づく事が出来ように自身で防いでいた。

 しかし、少女の属性ですら完全に防ぐ事が出来ない仕業に、少女は悔しそうに両足をジタバタする。


 一部の記憶が、まるで、凍らされているかのように欠如しているのだ。


 少女は呼吸を整え片手を掲げると、指先を中心に水色のサークルが飛沫を上げながら出現し、五つの星がそれぞれ星の先端になるようにして、魔法陣が展開される。

 防御の術式を唱え、次の逆行に備える。来るべき事になった少女は、まだ家主から認知されていない。

 少女の魔力が高すぎる故、少しばかり、家主からエネルギーが漏れてしまっているが、家主は人の生理現象として気にしていないので、少女は少々ばかり安堵していた事があった。


 しかし、少女は残念そうだった。


 少女が活躍するのは、物語の終盤であることが詠めてしまったのだ。

 ふぅっ、と息を整えて、かつての家主の願いを叶えるため、

 少女は大きく大きく息を吸い込み、


 ――おはようっ!!


 と、闇の空間に可愛い声を轟かせた。

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