第29話 呼びかけてくる女の子

 営業マンのCさんが休憩によく使う駐車場があった。そこは温泉施設の裏の駐車場で墓場に隣接するところだった。春には桜が綺麗で、静かな場所だった。


 春の穏やかな陽気に包まれるある日、いつもの様に駐車場に車を停め、座席を倒しウトウトとしていると、ふいにコンコンッコンコンッと窓をノックされた。


 薄目を開け見てみるとそこに着物姿でおかっぱ頭の女の子が立っていた。その顔異常に青白い。目は虚ろで黒目が異様に大きく左右の焦点が合っておらずどこを見ているのかわからない。


 その女の子がノックをしながら「お父さん……お父さん……」と呼びかけてくるのです。


 Cさんは即座にその女の子がこの世のものではないと思ったそうです。なぜならその女の子は薄く透けていて、背後の桜がうっすらと見えるのである。


 必死に消えてくれ……消えてくれ……俺はお父さんじゃないと寝たふりをしながら念じたそうです。


 しばらくするとノックは止み、女の子も消えていました。慌てて車を出すと、その場を離れたと言っていました。


 窓には手形が残っており、洗ってもなかなか落ちなかった。指の異様に長い奇妙な形の手形だったそうです。


 以後Cさんがその駐車場を休憩に使うことは無かったと言います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る