5死角

 ザーザーザー。キツネが人間の世界に行くと決めた日は、雨の日だった。キツネはこの雨でカモフラージュできるかもしれないと喜び、ゆっくりと歩を進めていた。

「よいしょ、よいしょ、ふぅ着いた。ここが人間がよく使っている道路だな、久しぶりに来たな。確か前来たときはまだ足が全部使えてたっけ、あんときは怖くてすぐ母さんのとこへ行ったなあ、だって灰色だもんな。」

 午前1時。ものすごい暗い上に雨も降り見通しは最悪だ。雨の色は黒く、どこか、キツネを歓迎しないようであった。

 「良し!行ってみるか」

 キツネは恐る恐る土の地面からコンクリートの道へ足を踏み入れる。初めて触れたその地面は固く、冷たく、生命の気配を感じなかった。

「か、かてえ、何だこれ、おわ、すげえなこれ、おお、おもしれえ」

キツネはアスファルトの上で足踏みをする。その姿は雨にさらされ、よく見えなくなってしまった。

ピチャン ピチャン バタバタバタ

 聞こえてくるのはキツネがはしゃいでいるような擬音だけである

ブロロロロロロ ブロロロロロロ

「おもしれえなこれ、へえ、石が埋まってやがる」

ブロロロロロロ 

ブロロロロ

キツネはまだはしゃいでいる

「あー失敗したな、シカも連れてくりゃ良かった。こんな感触、味わったことがねえよ、人間は今頃寝てるし、探検し放題だぜ!」

ブロロロロロ

キツネは気づかない。


カラスは気づいた

遥か頭上で、カラスはアスファルトの上でうごめく黒いものを見つけた。

 瞬間、カラスはそれがキツネだと確信した。

「おいキツネ、聞こえるか?車だ。車が来るぞ!離れろ!」

神様のいたずらか、その声は雨に消され、キツネの元には届かなかった。

「そうだ!こんなとこで遊んでる場合じゃあねえ、カラスにお土産持ってこないとな、あいつがびっくりするようなもんってなんだろな。」

ブロロロロ

ブロロロロロロロ

「キツネ!キツネ!」

…ァァ

「ん?今何か聞こえ」

ドン






白い軽トラックの前面で、鈍い音が鳴った。あの不思議な心を持ったキツネは、あこがれていた存在、人間によって、殺された。

 しかしキツネの生命力が上回ったのか、キツネはしゃべり始めた。

「い、いだい、くっ、人間、つ、つよいな、そんなに、近づいてたなんて、死角だった、なあ、」

バサバサバサ

「おいキツネ!大丈夫か!しっかりしろ!」

カラスがキツネの元へ寄ってきた。軽トラックは、気づかなかったのか、どこかへ行ってしまった。

「にんげんって、つ、つよいんだな」

「しっかりしろ!おい!お前は、人間にこんな体にされて、まだ…」

「なあカラス、来世ってあるのかな。」

「いやだ、やめてくれ、やだ」

「らいせは、にんげんに、なれたら、いいな」

 キツネの目は、閉じてしまった。

 

 








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