4四角

 それから何日かして、キツネは窮地に立たされていた。

「は、腹が減った…。」

 キツネは新しい住処をとりあえずは見つけたものの、知っている果物の木は全滅してしまい、あいかわらず小動物を食べる気にもなっていなかった。

「ウサギでも食うか…、背に腹は代えられないからな…。でもよ、かわいいんだよな…。」

 そんなことをぶつくさ言っているとタンチョウがキツネのもとへ寄ってきた。

「あらら、どうやらお困りのようですね、キツネ君」

「…先輩!いつみてもやっぱ美しいですね。」

「あらお世辞?」

「違いますよ!この間へんなカラスにあってからタンチョウ先輩がより一層きれいに見えます!」

「カラス君ね…まあ、そう言ってもらってうれしいわ」

それから小一時間ほど、キツネは空腹なのも忘れてタンチョウと雑談をしていた。タンチョウの太鼓持ちになりながら。

「じゃあまた会いに来るわ、あなた一人だものね」

「ほんとですか!一人だと寂しいんですよ。また会いましょう!」

 そう言うと、タンチョウは自らの群れの方へと飛んで行った。

「…………やっと行った。あー疲れた、おなかすいた…どうしよ…」

 タンチョウの次はカラスが来た。何やら重たそうなものを口に咥えながら。

「は、はあ…よおキツネ、久しぶり。」

「あ、カラスじゃねえか、今俺はおまえと口げんかする余裕もないんだよ、かえってくれ」

「まあまあ落ち着けって、どうせ腹減ってるんだろ、ほら、これ食えよ」

そういうと、カラスは口に咥えていたネズミらしきものをキツネに差し出した。

「うわ、これネズミじゃねえか!でも、うまそうだ。助かるよカラス。」

「いいってことよ」

キツネは夢中になって久しぶりの食事を楽しんだ。カラスは優しい目で見守ってた。キツネが食事を済ませたころ、

「なあカラス、暇なんだろ?なんか人間が使ってる面白いもの俺にも見せてくれよ。その羽でバサーッて飛べば、人間が住むとこぐらい簡単に行けるだろ?」

とカラスに問いかけた、カラスは、

「お、いいぜ」と快諾した。

 ほどなくして、カラスが戻ってきた。くちばしには、小さなさいころが咥えられていた。

「見ろよキツネ君、これ、‟サイコロ”っていうんだぜ。これで人間様は戦うんだと、己の運を使って、まったく滑稽だよな、こんな小さい四角でよ」

「し、四角?これが、何だこれ?」

 そう、キツネは知らなかった。サイコロも四角という形も。自然界に住んでいるものが、四角いものを見るのは極めてまれである。キツネは生まれて初めて‟四角”という形を認識し、ただただ驚いている。

「やっぱすげーよ。人間は、こんなきれいなものも作れんだぜ、俺なんかこんな形死んでも思いつかねーよ。よし!決めた!」

「何を?」

「俺、人間の世界に行ってみようと思う。」

「どうしたキツネ、血迷ったか」

「そんなんじゃねえよ、俺はただ、自分の好奇心が抑えられないだけなんだよ」

「隣の芝生が青く見えてて仕方がないんだな、でも、悪いことは言わねえ、今すぐ思いとどまれ、お前、死ぬぞ。」

「そうやすやすとは死なねえよ、明日にでも今度は俺が四角いものをお前に見せてやるよ」

 キツネは目をキラキラさせながら言った。カラスは悲しそうに

「ほんとに、気をつけろよ、明日、ここで待ってるからな」

とだけ言って飛び去って行った。

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