16「八方美人 -はっぽうびじん-」

英子えいこ。いつもの、よろしくねー」

「うん。英文、写しとく」

壱屋いちやさん、放課後に美会員の集まりがあるって」

「了解。今日中に活動内容のメール、送るね」

「いちー、今日の昼休みなんだけど……」

「オッケー。彼氏とお昼食べるんだよね。図書当番、やっておくよ」

 英子は声を掛けてくる人しべ手に的確な『かい』を示していく。

 笑顔で全員を見送る英子が、振動した携帯を取り出す。送り主は、大黒柱の母。内容は、母の代わりに双子の弟妹と父に夕食を用意するように、というもの。父は芸術家を目指していて、まだ夢は叶っていない。

(まず昼休みに図書室、放課後に三年一組……)

 今日中にやらなければいけないことをノートに書きだしていく。リスト表として使っているノートは、高校に入ってから半年でもう五冊目だ。しかし、未だに心の内をさらせる相手がいない。笑顔で声を掛けてきてくれるが、一緒に出かけようとは言われない。

(自分がやれることをしていればいつかは……)

 英子は、ノートを胸に抱えて教室に戻った。



八方美人はっぽうびじん:だれからもよく思われようとすること。また、そのような行動をする人』

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私的四字熟語読解 いとう縁凛 @15daifuku963

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