12「四角四面 -しかくしめん-」

「君、先輩にはきちんと挨拶したまえ」

「は、はいっ!! すみませ」

「『申し訳ありません』だ。それに挨拶というものは、君のように首だけ下げるものじゃない。腰の角度が重要だ」

 こうして腰を曲げるのだと手本を示す。しかし顔を上げると、注意していた下級生は消えていた。

 スクエア形の眼鏡のブリッジを人差し指で上げる。


 教室に戻ろうとすると、すぐ横を猛スピードで何かが走り去っていった。注意するため、競歩で追いかける。


「廊下は走る場所ではない!」

 声が届く範囲まで容易に距離を縮めた。くだんの人物を見ると、ひらひらとスカートが揺れ動いている。そしてその人物は、今まさに、窓枠に足をかけて外へ飛び出そうとしていた。


「委員長! また明日ね!」

「外に出る時は昇降口を使いたまえ!!」

 委員長の叫びは、女子生徒には届かない。



四角四面しかくしめん:まじめで堅苦しいことのたとえ』

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