第5話 毒と花と始まりの福音

「死にたい....」


(私は、かれこれこんな事を1人思っている

雨が降ってるけど、私は傘もさすきになれない。

この雨がどうか、心を洗い流してくれればいいのに....

全て水に流してくれればいいのに....

どうして、私は生きているのかな)


「死にたい...」


(口では、何度でも言えるのに、意地らしく死ぬ勇気が無い私が本当に嫌い。)


(本当にきらい!!!!)


涙が止まらない。


こんな土砂降りで、誰も居ない公園にただ一人。


(もしかして世界に私しかいないんじゃない?

それなら生きてても死んでるのと同じだよね

死んでも1人になるのだから、今世界に1人なら私は死んでいる?)


そんな事を思い浮かべる。


「紫陽花なんて咲いてるんだ...そう言えば、毒があるんじゃなかったかしら、これを食べれたら.....」


「君っ!!!何してるんだ!!」


不意に、声をかけられてビクりと反応してしまう。


「びしょ濡れじゃないか、って泣いてるのか?」


雨でかき消そうが、その腫れた瞼は確証がなかった。

とっさに俯き、首を振る


「ほら、俺の傘使っていいから!あとタオルもあげる!」


彼は、そう言いながら私の頭にタオルを乗せて、手に傘を持たせてくる


「やめてください...ほっておいて....」


「ほっておけないだろ、こんな雨で、こんな時間に」


時刻は、20時を過ぎていた。

6月の梅雨、日の入りは遅くなったものの、雨の日となると辺りは数メートル先程しか見えない程の暗がりになっている。

街頭の灯りで、照らされた周辺の視界はうかがえる状態だった。

そんな時間に、そんな場所に女性が1人

彼は、そんな彼女を放ってはおけなかった。


「ほら、行こう」


(優しくしないでよ....ほっておいてよ....)


彼は、優しく彼女を導く


「触らないで!!!!」


肩に乗せられた手に強く反応する。

その声に、彼はすぐさま手を退ける


(どうして、そっとして置いてくれないのよ...)


(私は....)


「死にたい....」


「え?」


(声に出てた?)


「死にたいの?どうして?」


「あなたには関係ないでしょ、もう放っておいて」


 私は、口に出してしまい気まずくなり、その場を急いで逃げ出す事にする。

(あぁ、どうして、どうして、どうして口にしてしまったの...私の馬鹿...)


「あっ、ちょっ!!!」


彼の呼び止める声がするのを無視して私はその場から逃げ出した。


(はぁ、逃げちゃった。また、私は逃げ出した。せっかく心配してくれた人がいたのに...)


罪悪感を抱えて、家に戻る


「あっ、傘もタオルも持ってきちゃった...」


はぁと溜息をする


(もう、会う事もないから、貰ってもいいよね)


「また来てしまった....」


(何してるんだろう私)


昨日と同じ場所に、昨日と同じ時間に


「あっ、紫陽花にカタツムリ乗ってる....どうせ紫陽花は食べられないのにね....」


「よくそんな事を知ってますね、花が好きなんですか?」


「っ!?」


昨日の彼が、現れたのだった。

昨日と同じく突然


(ビックリしちゃった...あっ、返さなきゃ)


「これ、昨日の持って帰ってしまったので...」


「あっ、わざわざありがとうございます」


「いえ...」


(っ!!気まずい....来たら来たで困るわね...)


紫陽花に視線を落とす彼が沈黙を破る


「紫陽花ってカタツムリのイメージあるんですけど、どうしてさっきあんな事言っていたんです?」


「あっ...紫陽花には毒があるから...」


感心したように彼はおぉと声をあげる


「そうなんですか、なんかそれじゃ僕たちが勝手にカタツムリは紫陽花ってイメージを押し付けてただけなんですね」


「そうですね、人は勝手なんですよ...そうやってよく知りもせずに押し付けたりして...あっ」


「はははっ」


「何が面白いんですか?」


「いや、昨日あんなにびしょ濡れになって、目を腫らしてた貴方が今日は少し元気に見えたので、それに今日も生きてた」


笑う口元から白い歯が見えて、その表情と言葉に嘘偽りは無かった。


(どうしてこんな事言うんだろう....)


彼女は、そんな笑顔に少し困る

他人から向けられる行為は苦手であり、それが死にたいと思う原因でもあった。

特定の人から向けられる行為を受け入れれば、その行為を貰えなかった人には、とても羨ましく見え、妬ましくあるように、気に入らない彼らは彼女をーーーーー


「帰ります...」


「あのっ」


去り際に彼は


「また、会えますか?」


そんな事を言うのです。

人生に希望を見出せなくなった彼女に、本当は彼に伝えなかった彼女

紫陽花の花は「死」に通じる花だと言う事

どんどんと花びらは色褪せていき衰退をイメージさせる事

そして、がくの部分が色褪せてその数が4枚つまり「死」を連想させる事

そんな事を思っていたとは知らない彼が言うのです。


「明日も、僕は来ますね。貴方が死なないように毎日ここで会いましょう!」


彼は、笑顔でそう言うのです。

その笑顔の後ろで、街頭に照らされたアガパンサスの花が、何かの訪れを、彼女に感じさせるのでした。

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名のない公園の住人達 無気力0 @horinsdakara

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