番外編⑮ 高嶺の生徒会長さん
「みんなー! 生徒会長とお近づきになりたいかー!?」
うおー!!
「至近距離でのお話、笑顔、香水でも柔軟剤でもないいい香りを堪能したいかー!?」
うおおおおおお!!
「それならやることは決まっている!! 戦争じゃあああ!!」
うおおおおおおおおおおお!!
「……何だこれ……」
俺はステージ上で椅子に座らされ、死んだ魚のような目で見ることしか出来なかった。
始まりは何だったのか。誰が言い出したのか。
はっきりと言えるのは俺が発案したわけではないし、許可した覚えも無かった。
それなのに今、俺は椅子の上で賞品にされている。
死んだ目をしてしまうのも無理はない。
俺が賞品になることで、生徒のモチベーションが上がるらしい。
意味の分からない理論だが、なんだか楽しそうなので付き合うことにした。
全校生徒が集められ、そして司会を務めている圭がノリノリで進行している。
どうやら何かしらのレクリエーションをして、そしてそれに勝つと俺と一日過ごせる権利を獲得出来る。
そんな価値があるとは思えないが、野太い声が体育館の中を包み込む。
可愛らしい容姿の生徒も、少し顔が怖かった。
若干引きながら様子を眺めていると、どんどん話が進んでいく。
「それじゃあ、これから帝と一緒にいる権利を手に入れるために、クイズ大会を始める!」
どうやらクイズ大会が始まるみたいだ。
俺はどんな結果になることやらと、まるで玉座のような椅子に寄りかかって眺めた。
「おー。どんどん減っていっているね。それじゃあ第18問。帝が最近、飼い始めた蛇の名前はキミドリである。〇か×か。どっちでしょう?」
クイズ大会というのはシンプルなルールで、体育館の床に〇と×が書かれていて、そして制限時間内にどちらかの場所に行くというものである。
間違えたら即終了。
問題が18問まで進めば、その数は十分の一ぐらいに減っている。
でも問題はそこじゃない。
あまりにも俺のプライベートに関することを知りすぎている。
身長体重、好きな色、食べ物、最近切った髪の長さ。
出題者は一体誰なんだ。
問題が進むにつれてマニアックな物ばかりになっていって、そしてそれを答えられる人達に完全にドン引きしていた。
蛇のことだって、あまり人には話していない情報なのにどこから漏れ出したんだろうか。
美羽の関与も疑いだして、俺はいたたまれない気持ちで下を向き息を吐く。
その瞬間、雄たけびが上がった。
「これは残っている人達にサービスしているようだね。最後まで生き残れば、どんなご褒美が待っているのか。期待していいよ!」
そして圭の言葉に、更に大きな声が上がる。
何かが火をつけたようで、全員の目が輝きだした。
「はい。みんな移動し終わったね。×の方が多い感じかな。それじゃあ正解を発表するよ。正解は……〇! カタカナでキミドリって言います。今回は難しかったみたいでだいぶ人数が減ったね。10人ちょっとぐらいになったのかな」
ネーミングセンスがないのを公表されて、恥ずかしくて顔をおおった。
つけた時はいいと思ったんだけど、御手洗に報告した時の表情が忘れられない。
あれは絶対に俺のことを馬鹿にしていた。
キミドリ、可愛いと思うのだけど。呼ぶときちんとこちらに来てくれるし。
この問題で人が減って、あと少しで優勝が決まりそうだ。
今更ながらに、残っている人達の顔を見て、俺は信じられない気持ちになった。
「……何してんだよ全く」
そこには何故か弟や転校生、俺の親衛隊達の姿があった。
いやそれだけじゃない。
桐生院先生や何故か神楽坂さん達までいる。
それ以外にも何人かいるけど、みんなに圧倒されていて可哀想だった。
これは駄目だ。
元々俺に近ければ、問題が分かるのも当たり前。あまりにも他の生徒が不利すぎる。
俺はすぐ近くにいる圭の服の裾を引っ張った。
「ん? どうしたの?」
「ちょっと提案がある。耳を貸してくれ」
「いいよ」
俺が誰にも聞かれないように提案すれば、圭の顔に笑みが浮かぶ。
「それ、いいねえ。じゃあ予定変更して。次の問題から始めようか」
そしていたずらっ子のように楽しげな雰囲気になり、マイクを持ち直して司会の仕事に戻った。
「次は特別問題! 人数も減ってきたし、ちょっと変わった感じにするから!」
俺の希望通り、圭は進めてくれる。
「ここにいる人達は帝のことをよく知っているよね。それじゃあ、帝と今までに一メートル以内まで近づいたことがある人は〇に、無い人は×に移動して」
その言葉にざわめきが大きくなったけど、すぐに止む。
そして今までとは比べ物にならないぐらい重い足取りで、移動していった。
「あらら」
「お」
まさかこの問題で決まるとは思わず、俺と圭は驚いてしまう。
残っていたメンバーのうち、×に移動したのは一人だけだった。
顔は見たことはあるけど、全く関わりのない人だ。
とても不安そうな顔で、それでもしっかりと立っている。
一人だと心細いだろうに、正直な人だ。
「決まりだな」
「そうだね。まさかこんなに上手くいくとは。帝はやっぱり賢い」
圭は自分のことのように嬉しそうに笑う。
そして今日一番の大きな声で叫んだ。
「そこの×にいる君。えーっと山田次郎君。おめでとう! 優勝だよ!!」
俺が拍手すれば、他の人達も次々と拍手していく。
玉座から立ちあがると、少し凝った体を伸ばして、そして下へと降りた。
山田君の元に近づき、手を差し伸べる。
「山田次郎、優勝おめでとう」
俺様な笑みを浮かべれば、信じられないような顔を固まっていた山田君は、そのまま後ろへと倒れこんだ。
「あらら。免疫が無かったみたいだね」
呆れたような圭の声が聞こえてきて、俺は少し反省した。
もう少し、他の生徒と関わるべきなのかもしれないと。
それよりも、まずは山田君を保健室に運ばなくては。
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