番外編⑭ 対等なライバルとして





 綺麗だから守りたいと思った。

 でもそれ以上に、対等な関係になりたかった。

 同じ立場、良きライバル。


 だからこそ俺は、生徒会ではなく風紀委員長になった。

 そしてそれは正解だったと思う。


 一之宮帝という人間は、魅力的な人間だ。

 そのせいで色々な人間を惹きつける。

 俺や生徒会にいるメンバーはもちろん、先生、更には理事長までたぶらかしているのだから目が離せない。

 それだけならまだいい。

 俺達は別に無理やり何かをするわけではなく、基本的に帝の意見を尊重している。


 でも中には、そうではない人間がいる。

 風紀委員長になってから、桐生院先生から一度話をされた。

 帝は昔からその手の変態に狙われていて、そして変態度があまりにもおかしかったと。

 連続少年暴行事件の犯人、そんなレベルがごろごろといたらしい。

 それを帝に気づかれないように秘密裏に処理し、今まで事なきを得ていた。


 まさかそんなことが起こっているなんて、全く気付いてなかった。

 確かに魅力的な人間だと分かっていたけど、ここまでだとは。


「俺の手に負えない時は、どうか守ってくれ」


 そう締めくくった桐生院先生の顔は、いつになく真剣だった。

 それだけで帝が今までどれぐらい危険な目に遭いかけたのか、俺は察してしまった。


「全力をかけて傍にいます」


 守るなんて、帝は望んでいないかもしれない。

 だから俺は、傍にいることにした。

 しかし表向きは、良きライバルとして。





 風紀委員長になってからの俺の仕事の大半は、帝関係によるものだ。

 割合で言うと8割ぐらいかもしれない。

 まさかここまで多いとは、予想を遥かに超えていた。


 仕事として多いのは、盗撮盗難関係である。

 日常生活だけならまだしも、着替え中や入浴中など、いつ撮ったのか問い詰めたくなるようなものも出回っている。

 親衛隊が優秀だから、これでも数が少ないというのだから頭が痛くなる話だ。


 もしもこれで統率が取れていなければ、もっと酷い状態だった。

 生徒会長になる前に、きちんと親衛隊と向き合っていた帝には、先見の明があるのではないかと考えてしまう。

 新しく親衛隊隊長になった等々力も、見た目のいかつさから考えられないほど繊細に親衛隊を取りまとめている。

 周囲の人に恵まれているのも、帝の能力の内の一つだろう。


 しかしあまりにも光が強すぎて、良くないものも寄って来る。

 近くにいれば同じ存在になれるとでも思っているのか。

 おかしなことだと、俺は鼻で笑う。


 帝は確かに生まれながらに特別だったが、今現在輝いているのは、それに見合うぐらいに努力してきたからだ。

 それを知らずに、ただただ羨ましい羨ましいと妬んで、でも魅力にとりつかれて行動をエスカレートさせる。

 本当に頭が悪い。

 自分で努力することを放棄した人間ほど醜いものは無い。

 そんな人間に、帝のことを脅かされるなんて絶対にあってはならない。


「さあて、そろそろしめないとな」


 生温いことをしていると気が緩んでいく。

 何をしても大丈夫だと、そう考える馬鹿がそろそろ出てくる。

 お灸をすえて見せしめにするか。

 俺は適当な人間をピックアップし始めた。





 退学者3名。

 停学者5名。

 名前を書かれた紙を見つめ、俺はそっと息を吐く。


 思っていたよりも人数が多くなってしまったのは、悪質なものが多数いたからだ。

 盗聴盗撮盗難が可愛いと思うぐらいのレベル。

 まさか計画立てて、帝を襲おうとするなんて命しらずがまだいるとは。

 頭が痛くなるが、それでも上手く処理出来たのだから良しとしよう。


「随分と暴れたようですね」


 掲示板を見ていたら、隣から美羽が話しかけてきた。


「まだまだ軽いもんだ。でもまあ、これで少しの間は落ち着くだろう」


「少し、というところが悲しい事実ですね。まあ帝の魅力を考えれば、当たり前かもしれませんが」


「全くだ。うちのお姫様は魅力があり過ぎる」


「確かに」


 軽口を叩いたら珍しく乗ってきた。

 いつもだったら、お姫様というワードは訂正されるのだが、何か思うところがあるのかもしれない。


「あなたは随分と変わりましたよね」


「そうか?」


「初めて会った頃は恥ずかしがり屋の変態だった気がします」


「あー」


 確かに帝に初めて会った時、あまりの神々しい可愛さに頭のねじが何本か吹っ飛んでしまっていた。

 今思うと、よく犯罪に走らなかったものだ。

 一歩間違えていれば危なかったから、自分を褒めてやりたい。


「まあ、一緒にいるためには俺も力をつけなきゃいけないと思ったからな。ライバル。いい立ち位置じゃないか?」


「いいと思いますよ。私には無理な立場ですから。あなたが羨ましくなる時があります」


「それはお互い様だろ。将来の右腕さん」


 無いものねだりをしたら、どんどん欲が湧いていってしまう。


「出来るなら恋人の立ち位置も欲しいところだけどな。それはこれからの頑張り次第か?」


「恐ろしいぐらい鈍感ですからね。誰が落とせるか。神のみぞ知るところです」


「神頼みしてたら手に入らないさ。弱肉強食。油断してたら、横からかっさらわれるぜ」


「肝に銘じておきます」


 俺は帝のライバルという立場を選んだ。そのことを後悔していない。

 そしてこれから、恋人という立場も勝ち取るつもりだ。

 そのためには、余計な虫は排除するに限る。




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