番外編⑤ 2人じめの日
「もうみんなばっかりずるい!」
「僕達もみかみかと思い出作りたい!」
それは、いきなり爆発した。
生徒会室で仕事をしていたら、突然朝陽と夕陽が立ち上がって叫んだ。
あまりにも急だったので、俺達は驚いてしまった。
「急にどうした? 朝陽、夕陽」
「急じゃないよ! ずっと思ってた!」
「みんなばっかり、みかみかに構ってもらってずるいって!」
「……あなた達も十分構ってもらっていると思いますが」
「「全然足りない!」」
美羽の言葉もはね返し、2人は駄々っ子のように地団駄を踏む。
「ずるいずるいずるい!」
「思い出作りたい!」
久しぶりにシンクロしているのを見るなと感動しながら、俺は2人がきちんと自分達の仕事を終わらせているのを確認した。
「しょうがねえなあ。それなら3人で遊びに行くか」
文句も言わずに仕事を頑張っているご褒美として、俺は提案する。
出かけるのがご褒美になるか微妙なところだけど、言った瞬間2人の顔が輝いた。
「本当!? 絶対だからね!」
「やったー! どこ行こうかな」
そんなに喜んでくれるのなら、俺としても嬉しい。
顔が緩みそうになり、慌てて引き締めた。
「1日だけだからな。行きたいところとかは、決めとけよ」
「「うん、分かった」」
任せっきりにしたのに、楽しそうに返事をされて調子が狂ってしまう。
俺と出かけるだけで、そんなに嬉しくなるものだろうか。
そんな顔をしていたら、部屋にいるメンバー全員がため息を吐いた。
そういったわけで、今度の休みに朝陽と夕陽と3人で出かけることになった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「やっぱり、デートといったら水族館だよね」
「動物園や遊園地とも迷ったんだけどね」
「おいおい。今日はデートじゃないからな」
右腕に朝陽、左腕に夕陽。
それぞれに腕を組まれた状態で、俺は水族館の通路を歩いていた。
全てを任せたのは俺だけど、まさか水族館になるとは思わなかった。
2人の性格から考えて、ゲーセンや遊園地といった騒がしい感じのところに連れてかれると勝手に予想していたからだ。
でも水族館の独特の雰囲気も好きなので、文句はないし楽しみである。
「イルカが見たい!」
「えー。クラゲ見に行こうよ」
「時間はあるんだから、どっちも見に行けばいいだろ」
「「さっすがみかみか、太っ腹」」
それぞれ絶対に見たいものがあるみたいで、左右に引っ張られかけたが、順路通りにすれば全部見られる。
テンションが上がりすぎて、そんな簡単なことも分かっていないらしい。
これは今日一日、体力を使いそうだ。
俺はそれさえも嫌じゃなくて、自然と口角をあげていた。
「やっぱ、イルカ可愛かった!」
「クラゲも、フワフワって浮かんでて可愛かった!」
「それは良かったな」
「みかみかだって楽しんでいたくせに」
「そうだそうだ。シャチのところで、すっごい目が輝いていたじゃん」
「ぐ」
バレていたか。
この世界に来て、生で見るのは初めてだったからテンションが上がってしまった。
顔に出さないように気を付けていたけど、さすがに気づくか。
俺は恥ずかしさから顔をそらしながら、お土産コーナーに進んでいく。
「そんなに照れなくてもいいのに」
「そうそう。シャチって可愛いよね」
「……うるせえ」
顔を隠したいけど、腕を掴まれているせいで無理だった。
両脇から視線を感じながら、俺はどんどん足を速く進める。
「「もう早いよ」」
もはや競歩の速さでお土産コーナーに辿り着くと、息を切らしながら文句を言われた。
「体力がなさすぎるんだよ。ほら、さっさと土産を買うぞ。文句を言われたくないからな」
水族館に行く条件として、美羽達に出されたのは写真の提示と報告、お土産の確保だった。
抜け駆けは許しません。そう笑顔で朝陽と夕陽に詰め寄っていた美羽の姿は、はたから見ても鬼気迫っていた。
「確かにみーみー怖かったもんね」
「牽制の連絡も凄かったし」
「連絡? 俺には来ていない」
「まあ。僕達に対するものだから」
「みかみかは気にしないで」
「? おう」
疲れた顔をしていたが、俺に詳しい話をする気は無いみたいだった。
さすが大きな水族館なだけあって、お土産コーナーの品ぞろえが凄い。
俺は無難にクッキーを選んでいると、とあるコーナーが目に入った。
「……しょうがねえなあ」
頼まれていたわけではないけど、俺の予想が当たっていたらのために、俺はそのコーナーのところに向かった。
「お土産も買ったし、満足満足」
「クラゲのクッションも買ったんだ」
「僕もイルカのぬいぐるみ買っちゃった」
それぞれお土産を買い、入り口のところで再び集まる。
朝陽も夕陽も抱えるようにぬいぐるみを持っていて、それが似合っているせいか、視線が集まっていた。
「それじゃあ、名残惜しいけど帰ろうか」
「お泊り出来ないからね。残念。まあ、出来たとしても止められただろうけど」
「確かにね」
どうなることかと思っていたけど、2人とも楽しんでくれたようで何よりだ。
今は迎えの車を待っているところなので、まだ少し時間がある。
俺はそれを確認すると、袋の中から先ほど買ったものを取り出して、2人に渡した。
「なになに?」
「どうしたの?」
「やる」
渡したのは、ペンギンのストラップだった。
丸々としたフォルムで柔らかいタイプ。
「くれるのは嬉しいけど」
「どうしてペンギン?」
「だって、2人ともペンギンが一番好きなんだろ?」
俺の言葉に驚いた表情を浮かべ、そして詰め寄ってくる。
「何でそう思ったの!?」
「どうして!?」
「イルカやクラゲの時も楽しそうだったけど、一番楽しそうだったのはペンギンの散歩を見ていた時だったからな。だから好きだと思ったんだけど、違ったか?」
「「違わない。でも……」」
違わないのに、浮かない表情をしているので、俺は小さく息を吐くと袋を地面に置いて、2人の頭を撫でた。
「好きなものは好きと言え。別に全部を違くする必要は無いんだからな。他人だって同じものを好きになる。だから気にするな。遠慮したら負けだぞ」
これでいいのかと不安だったけど、顔を真っ赤にさせながら合っていたようだ。
「みかみかってさ……本当罪作りだよね」
「何で分かっちゃうのかなあ」
「分かりやすいからだろ」
「そんなこと初めて言われたけどね。まあいいや」
「遠慮する必要は無いんだもんね」
また俺の両脇に来ると、背伸びしてきて頬に柔らかい感触がした。
「「みかみかに関してはごまかすつもりないから。覚悟してね」」
「お、おう?」
よく分からないまま返事をしていたら、ちょうど迎えに来た御手洗にため息とともに怒られた。
全く持って納得いかない。
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