163:未来へ
一之宮家を辞めた御手洗は現在、家の方の仕事で忙しそうにしている。
それでも毎日テレビ電話をするので、寂しさを感じることはなかった。
必ず最後に、浮気しないでくださいと言われるけど、別に付き合っているわけじゃないから軽く流している。
まだ告白の返事はできていない。
御手洗のことは好きだ。それは自信を持って言えるけど、恋愛感情なのかどうか分からないのだ。
待たせるのも悪いが、こんな中途半端な考えで答えを出す方が駄目だと思い、返事は待ってもらっている。
「いい返事を貰えるのならば、いつまでも待ちますよ」
でもこんなプレッシャーをかけられているので、そろそろ答えを出すべきか迷っていた。
それよりも、というのもなんだけど、俺は危機的状況に立たされている。
誰かに嘘だと言ってもらいたいし、今でもドッキリの可能性を疑っているのだが、誰も未だにドッキリ大成功の看板を出してくれない。
「……本気でみんな、俺のことが好きなのか……?」
御手洗に告白され、学園に戻ってから1週間。
たったそれだけの期間に、俺は約12人の人に告白された。
その内訳は、弟、美羽、匠、朝陽、夕陽、圭、仁王頭、宗人君、転入生、等々力。
約12人というのは、桐生院先生と神楽坂さんも、からかいなのか本気なのか判別が付きにくいアピールをされたから、一応数に入れている。
それぞれ呼び出したり、偶然2人きりになった時だったり、色々なシチュエーションで1人として被っていなかったので、逆に相談したのではないかと思ってしまった。
その誰もが答えをすぐには求めて来ず、じっくり考えてから決めて欲しいと言われた。
俺はそれに甘えて、全員に対する答えをいまだに保留にしている。
でも、いつかは答えを出さなければいけない。
それは分かっているが、この関係を崩すのが怖かった。
周りから誰かがいなくなる、俺はそれが一番怖いのだ。
何とかなるとは思っていても、どこかで俺はまだ弱かった。
一体、どうすればいいのだろう。
最近の俺はそのことに悩んでいて、あまり体調が良くなかった。
ぐるぐると考えているせいで睡眠も浅く、食事も喉を通らない。
このままじゃまずいのは分かっているけど、答えが出ないので、気持ちを切り替えることが出来なかった。
「帝、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「それならよろしいですが、体調が悪いのであれば休んでくださいね」
そんな俺の様子に気づかれてしまうが、ごまかせば納得してくれた。
俺はキーボードで入力しながら、頭の中では別のことを考える。
今、心配してくれた美羽も告白してくれた1人なのだけど、俺のどこを好きになったのだろうか。
人に好かれることなんてしたつもりはないし、好かれる要素と言えば顔ぐらいしか思い当たらない。
でも、告白してくれた人達は、顔で選ぶタイプではないだろう。
それなら何故?
みんなのことを疑いたくはないが、理由が分からないせいで気持ちを信じきれなかった。
「書類、風紀に届けてくる」
「はい。気を付けてください」
「子供じゃねえんだから、大丈夫だ」
生徒会室からそう遠くない場所に書類を届けるのに、そんな心配されるような何かがあるわけない。
そういう意味を込めて返したが、こういうのは一般的にフラグというのだ。
地面が急に無くなったかのような感覚がしたかと思うと、目に前が暗くなる。
「帝!」
美羽の驚いた声が聞こえるが、返事が出来ないまま俺は前に倒れた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
目を覚ますとそこは保健室で、俺が寝ているベッドを囲むように、みんなが恐ろしい表情で立っていた。
その顔面の恐ろしさに、俺はすぐに逃げ場を探したが、全く隙が見当たらない。
俺は全員の顔を見て、そしてここにいるメンバーが全員、俺に告白をしてきた人だと気づく。
悩みの種が勢ぞろいして、そして倒れた俺を怒っている。
寝起きの頭では処理しきれず、俺の目には涙が浮かんでしまった。
「に、兄さん! どうしたの? 体が辛い? 大丈夫」
涙目になった俺に対し、弟がパッと表情を変えて、俺の体をさすってくる。
その様子からは怒りを感じなくて、怒りの対象は俺じゃなかったらしい。
「突然倒れたって聞いて、それで駆けつけてみたら、兄さん痩せたしクマも酷くて。ここにいる人達と話をしたんだけど、兄さんが倒れたの俺達のせいなんだよね」
「う……」
否定は出来ないが、告白されたと包み隠さずいうのも恥ずかしくて、目をそらした。
その行動は答えを言っているようなものだ。
「ごめんね、兄さん。兄さんを困らせたかったわけじゃないんだ。でも、気持ちを知ってもらいたくて」
目元をさすりながら、弟は眉を下げる。
「ごめんなさい、みかみか」
「……ごめんなさい」
「私も大人げなかったね」
「帝様が倒れたと聞いて、サポート不足だったと痛感いたしました」
周りにいた人達も次々と謝ってきて、みんな情けない顔をしている。
「いや。俺も、ちゃんと答えを出さなければいいと思うのに。でも好かれる理由が分からなくて」
それに対し素直な自分の気持ちを話せば、ところどころからため息を吐かれた。
「帝君。まだ分かっていなかったんだ」
「俺達のアピールが、まだまだだったってことだろう」
「ここまで鈍感だとは思わなかったけどな。全く、彰は何をしていたんだ」
呆れた顔で、やれやれといったジェスチャーをするから、俺もムッとしてしまう。
「俺のことを恋愛的な意味で好きだなんて、信じられるわけが無いだろう」
そっぽを向けば、くすくすくくくあははと、それぞれが不穏に笑ってくる。
その笑い声に、俺の背筋が寒くなった。
「……まだ、信じていないなんてな……」
「本当だよ。こんなにも好き好きオーラだしているのに、帝にはまだ足りなかったみたいだね。もっともっと好きな気持ちを表さなきゃね」
なんか、押してはいけないスイッチを連打した気分だ。
今更取り消すのは無理だろうか。
「……帝、これからたっぷり愛してあげますので。覚悟してくださいね」
「ひ、ひゃい」
美羽の有無も言わさない笑顔に、俺は引きつった顔で頷いた。
どうやらリコールされて破滅する心配は無くなったが、これからの俺は別の心配をしなければならなくなったみたいだ。
生き残ることは出来るだろうか。
今から、胃が痛くなってきた。
それでも俺は、みんなとまだ一緒にいられることが嬉しくて、顔が引きつりつつも笑いかける。
「こ、れからもよろしく」
返ってきた力強い頷きに、俺は今度はちゃんとした笑顔を浮かべられた。
「あ、そういえば兄さん。父さんと御手洗さんにも連絡したから、向かってきているはずだよ。だいぶ心配していたから、覚悟しておいた方が良いと思う」
「……うげ」
やっぱり、ここから逃げたいかもしれない。
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