157:御手洗を探す手がかりはどこでしょう





 弟も御手洗の行方を知らなかった。

 そうなると残る望みは、一之宮家しかなかった。


 落ち着くために自室に戻り、俺は久しぶりに一之宮家本宅の電話番号にかけた。

 コール音を聞きながら、さて誰が出るかと緊張する。


『もしもし、どちら様でしょうか』


 電話に出たのは、屋敷で働くメイドの1人だった。

 長く働いている人なので、緊張もほぐれる。


「帝です。今、お父様はいらっしゃいますか?」


『帝様! ただいまお繋ぎ致します!』


 名前を言えば、すぐに甲高い声と共に、父親に繋げてもらえる。


『もしもし……どうした、帝?』


 落ち着いた父親の声を聞くのは、誤解を解いてから以来だった。


 生徒会長の仕事の荷が重いのではないか、そう言った後、父親は無理をしないようにと心配してくれていたらしい。

 でもショックを受けていた俺は、それを聞き流してしまい、誤解が生じてしまったというわけだ。


 後で恐る恐る電話した時に、それが分かり安心した。


「あのさ、少し聞きたいことがあって。御手洗って、今そっちで何している?」


 珍しく屋敷にいるが、きっと忙しいだろうと、さっそく本題に入った。

 でも俺の問いかけに、返ってきたのは沈黙。


「お、とうさま……?」


『御手洗は辞めた』


「……………………は……?」


 やめた?

 それはどういう意味だ?


 俺の頭の中で、その3文字がぐるぐると回る。


「止めたって……どうしてですか?」


『御手洗から聞いていなかったのか? 元々そういう約束だった』


「……約束とは?」


『それは教えられない。御手洗は一ノ宮家の執事を辞めた。それだけを事実として知っていればいい。…………もう忙しいから終わりだ。これからも頑張りなさい』


「ちょっ!」


 一方的に切られた電話だが、かけ直すことは出来ず、俺はスマホを前に固まるしか無かった。


「……御手洗が、執事を辞めた」


 俺になんの相談もなく、何も言わずに辞めた。


「……もしかして、この前の時点で……くそっ……」


 きっと前々から話は決まっていただろうから、一緒に旅館に泊まった時には、辞めることになっていたはずだ。

 それなのに、あんないつも通りの態度で、別れに言葉すらも言ってくれなかった。


 御手洗の中での俺の立ち位置は、そんなに低いものだったのか。


「ははは……はは」


 俺は笑いながら、あふれる涙を拭う。


「……絶対に諦めない」


 それは絶望ではなく、純粋な怒りだった。

 何も痕跡を残さず消えた御手洗を、このまま諦めるなんて、無理な話だ。


 絶対に見つけ出して、理由次第では一発殴る。


 俺は固く決心して、御手洗を探すために動くことにした。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 御手洗を探すと決めたはいいが、手がかりが全く無い。

 俺は御手洗について、知っていることがあまりにも少なすぎた。


 まずは御手洗の情報を集めよう。


 そういうわけで俺は、桐生院先生の元に、また突撃した。


「御手洗について、教えて欲しい」


「帝の頼みなら、何でも教えるぜ」


 桐生院先生は、放課後いきなり訪ねた俺に、特に嫌な顔をせず出迎えてくれる。


「彰、一之宮家の執事を辞めていたんだって?」


「耳が早いな。その通りだ。御手洗は一之宮家からいなくなっていた」


「まさか。そんな風になっているとはな。それで、帝はどうするつもりなんだ?」


「どうするって。とりあえず会いたい。だから探そうと思う」


「ふーん、そうか。俺は何をすればいいんだ? というか、何をしてほしいんだ?」


 頼みごとを嫌がらないだろうけど、俺のわがままで頼んでもいいのだろうか。

 少し迷うが、他にあてがない。


「さっきも言ったが、御手洗について教えてほしい。どんなささいなことでもいい。頼む」


 俺は頭を下げた。


「帝にそこまでされたらな。断るわけもいかないしな。俺の知っている限りでいいのなら、彰について教えてやるよ」


「ありがとう」


 断られることは無いと思っていたが、それでも安心する。


「彰と俺は同級生だ。それは、この薔薇園学園のな」


「そ、うだったのか。ということは、御手洗はどこかしらの御曹司ということか? でも、それなら何で執事なんか……」


「その理由までは、俺も知らない。俺は学園で彰と出会って、仲良くなった。でもだからといって、腐れ縁というか悪友だから、そんな知っていることも少ないんだけどな」


 まさか御手洗が、薔薇園学園の先輩だったとは。

 今までそうかもしれないと思っていたけど聞かなかったせいで、俺は驚くはめになった。


「それじゃあ、手掛かりはないのか?」


 知っていることが少ないというのは、御手洗を探すための手掛かりがないと同じだ。

 俺は情けない声を出してしまう。


「まあ、そう焦るな。知っていることは少ないけどな。でも、役に立ちそうな情報が一つだけある」


「何だ?」


 食い入るように尋ねれば、桐生院先生は苦笑した。


「必死になるのは良いけど、焦ってもうまくいくことは無いからな。落ち着いて聞け。彰は落ち込んだり、何かあると行く場所があるんだ。もしかしたら、今もそこに行っているかもしれない」


「それはどこなんだ?」


「帝も聞けば分かるはずだ。そこは……」





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