152:誤解をといていきましょう




「つまり、みんなは転入生に惚れたんじゃなくて、監視をしていたってことなのか?」


「そうです! どうして惚れたなんて、勘違いをされたんですか!?」


「いや、あの態度は勘違いしてもおかしくないだろう」


 転入生徒の件を、まるで浮気の釈明をするかのように必死に説明され、そしてなんで誤解したのかと泣かれた。

 それを必死になだめるせいで、先程から話が全く進まない。


「何でですか! 仕事はきちんとしていましたし、惚れたなんて一言も言った覚えはございません!」


 そうは言われても、生徒会室には全く来なくて転入生に付きっきりだったし、食堂で会った時は俺の味方をしてくれなかった。

 弟にいたっては、わざわざ生徒会室に来てまで、転入生に近づくなと忠告をしてきた。


 どう考えても、誤解されるのは当然の結果だ。


 でもそれを指摘したところで、余計に泣かせるだけだから、俺は優しさから黙っておいた。


「そういえば、何で転入生を監視することになったんだ?」


 そもそもの原因は、そこから始まったのだ。

 惚れていなかったとしても、どうして監視することになったのか。


「それは……」


「あの転入生が、危険人物だと判断したからだな」


 言い淀む美羽に代わって、今度は匠が答え始める。


「危険人物……まあ否定はしねえが」


「そういえば兄さん、転入生とここで2人きりになったんだよね? 何もされなかった?」


 あの時のことを思い出していれば、ハッとした弟が詰め寄ってくる。


「2人っきりになっただって? それはどういうことだ?」


 その件は弟以外知らなかったらしく、にわかに雰囲気が殺伐とする。

 俺に向けられたわけではないけど、とてつもなく居心地が悪い。


「1人で仕事していた時に、いつの間にかいたんだよ。変なことは……まあ、大丈夫だったから気にするな」


「何されたんだ」


「愛の告白まがいのことをされただけだ。全てを排除して、俺と2人きりになりたかったんだとよ」


「あの野郎……もっと監視するべきだったか」


 完全に怒っている匠の顔は、人一人平気で殺していそうだ。


「そういえば……転入生はどこにいるんだ?」


 ここには今のところ、転入生の姿が無い。

 俺がいない間に、何があったのだろうか。


「えー。光なんて気にしなくてもいいじゃん」


「そうそう。みかみかが気にすることじゃないよ。忘れちゃえ」


 両腕にまとわりついている朝陽と夕陽が、頬を膨らませて俺の気を引いてくる。


「そうはいかねえだろ。あいつも悪かったかもしれねえけど、このまま終わりにするのは違う」


「帝君、優しすぎるよ。そこはもう二度と顔を見たくないとか、末代まで呪ってやるとか、そう言ってもいいんだよ?」


「さすがに末代までは呪わねえよ。それで、どこにいるんだ?」


 分かっていたけど、俺と転入生を会わせたくないみたいだ。

 後ろに引っ付いていた圭まで、嫌そうな声で引き留めてくる。


 こうなってくると、転入生の身の安全が心配になってきた。

 まさか、生きているよな?

 そこまで心配になってしまうぐらい、みんなの殺気が凄すぎる。


「……会って、どうするつもりなんだ……?」


 仁王頭が心配そうに尋ねてくるが、俺が危害を加えるつもりはないと分かってほしい。

 俺は安心させるように、手の届く範囲にいる仁王頭の頭に手を伸ばした。


「心配しなくても、ただ話をするだけだ。そんな顔をしなくても大丈夫だから」


 そのまま何回か撫でれば、少し頬を赤く染めながら口元をむずむずと動かす。

 それは仁王頭が嬉しい時にする癖なのは知っているので、もう何回か撫でておいた。


「仁王頭君にばっかり、帝は甘すぎる。俺のことも撫でてくれていいんだよ。あ、そうか。転入生のことを離せば褒めてくれるよね。あんまり話したくないけど、しょうがないか。帝に褒められる方が大事だからね。よしよし話そう。今、転入生は理事長室にいるよ。呼び出されて、話をしているみたい」


「理事長室か。今から行ってくる。ありがとうな、宗人君」


 言い方はあれだけど、転入生の居場所は教えてくれたので、感謝の意味を込めて仁王頭を撫でているのとは反対の手で撫でる。


「ご褒美。ありがとうございます!」


 撫でられたのが、とても嬉しかったらしく、鼻を押さえながら俺を拝みだした。

 通常運転で何よりだ。


「みんなも。まあ色々と誤解があったけど、俺の方も信じなくて悪かった。あと、昨日は無断でいなくなって心配かけて本当にすまない」


 理事長室に行く前に、そういえばきちんと謝っていなかったことを思い出す。

 俺は2人の頭を撫でるのを止めて、みんなに頭を下げた。


「兄さん、俺の方こそごめんなさい」


「私こそ、きちんと説明しなくて申し訳ありません」


「俺も……寂しい思いをさせて悪かった」


「ごめんね、みかみか」


「本当にごめんなさい」


「俺も、帝君が食堂で色々と言われていた時に、ちゃんとかばえなくてごめんなさい」


「……すまない。本当にすまない……」


「ごめんなさい。帝を傷つけていたなんて、死んでも死にきれないけど、そうしたら優しい帝が悲しむだろうから、これからは傍にいて償っていくよ」


 みんなもそれぞれ頭を下げて、俺達はしばらくぶりに笑い合った。


 後は、そもそもの原因である転入生に会わなくては。

 俺は覚悟を決めて、今度は理事長室へと向かうために生徒会室から出ようとした。


 でも、まとわりつくみんなが離れてくれず、結局全員一緒に行くこととなってしまった。



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