137:続けて話をしてみましょうか
『もしもしい。みかみか、どうしたの?』
最初の声だけでは判断出来なかったが、俺はなんとなくの予想で名前を呼んだ。
「今、大丈夫か? ……朝陽」
『うん、大丈夫。夕陽と一緒にごろごろしていたところだよ』
「夕陽もいるのか。ちょうどいい。それじゃあ、スピーカーにしてくれないか」
『はーい』
『……みかみかー、急に電話してきて、どうしたの?』
スピーカーになったからか、夕陽の声が響いて聞こえてくる。
「まさか一緒にいるとは思わなかった。タイミングいいな。さすが」
『えー、なにそれ褒めているの? というか、なんで朝陽に電話かけといてスピーカーにしたの?』
「どっちにもかけるつもりだったんだけど、一緒にいるのなら都合がいいってことだ」
『なーんか、扱いが雑な気がする。まあいいや。それで、僕達に何の用?』
不満そうに訴えてくるけど、実際2人が一緒にいて助かったし、普段仲がいい証拠だろう。
「俺のこと、どう思う?」
聞き方を変えてきたのは、ただの気まぐれだった。
『どう思うって、ざっくりとした質問だねえ』
『聞きたいのは、もしかして俺様な感じのこと?』
「お、よく分かったな」
『たまたまだよ。みかみかが悩むのって、そういう話かなって思っただけ』
『けっこう、分かりやすいし』
まさか、こんなに早く言い当てられるとは思ってもみなかった。
それぐらい俺が分かりやすかったのと、俺のことをよく見ていたのだろう。
「俺、こんなふうな態度をとって、嫌な気持ちにさせたこともあっただろう?」
『……何言ってるの、みかみか。嫌なことなんて、一度も無いに決まってるじゃん』
『そうだよ。みかみかが言うことは、いつだって正しかったし、僕達に出来ないようなことは無理にさせなかった。それなのに、嫌になるってありえないでしょ』
まさか2人にも呆れられるとは。
俺は思っていた以上に、みんなに好かれているようだ。
「そっか。それならこれからも、たくさん働いてもらおうかな。逃げたら承知しないぞ」
『えー、仕事はやだ』
『一緒に遊ぼうよ』
「言っていることが矛盾してないか? まあいい。急に電話して悪かったな。それじゃあ、明日もちゃんと生徒会に来いよ」
『『ばいばーい』』
またサボらないように念を押して電話を切り、俺は大きく息を吐く。
「あー、誰もいなくてよかった」
こんな赤い顔、誰にも見せられない。
俺は手で仰いで顔を冷まし、次の人に電話をかける。
『……帝君、この前ぶりー。もしかして、またなんか兄ちゃんとかに言われた?』
時期が時期だったからか、圭はまた俺が彗さんとかに何かをされたのではないかと思ったらしい。
今にも飛び出していきそうな様子に、俺は慌てて止めた。
「違う違う。今のところ連絡はないし、ちゃんと謝ってもらったから。もう気にしていない」
『それならいいけど。もしも何か言われたら、すぐに俺に連絡してねー。……それじゃあ何があったの?』
「そんな重要な話じゃないんだけど。あー、もしかして忙しかったか? それなら、都合のいい時間にかけ直す」
『暇してたから、時間は大丈夫だけど、電話をしてくるなんて珍しいから不思議だっただけ。それで、どうしたのー?』
誤解は解けたようで、緩さを取り戻した。
殴り込みに行かなくて良かったと安心しながら、俺は問いかける。
こうなったきっかけだからか、今までで一番緊張していた。
『……俺のこの感じ、どう思う? 俺様が演技だとしたら、圭は家を捨ててでも着いてきてくれるか?』
もし、ここで拒否されたら、俺はどうするつもりだろう。
全くそこら辺は考えていない。
無計画のまま、敵陣に突っ込んでいるわけだ。
我ながら馬鹿である。
『……俺が幻滅したって言ったら、帝君はどうするつもりなのー?』
俺の不安が伝わったのか、圭は意地悪な質問をしてきた。
いや、本心からの質問かもしれないと思い、俺は唾を飲み込む。
「どうする、か。そうだな。本当ならば、だましていたんだから、もう二度と会わないように姿を消すとか、償って生きていくのが正解かもしれないけど……」
俺が次に言う言葉は、正解じゃなかった場合、完全に決裂の言葉になる。
「……もう一度、俺と一緒に生きていたいと思う行動をとればいい。性格とか関係無く、俺だからついて行きたいと言ってもらえるようにな」
なんて自分勝手な答えなのだろう。
圭に電話をする順番がもう少し早ければ、絶対に言えなかった。
言ってしまったあとは取り消すことは出来ないので、俺は圭の判断を待つ。
『あはは。帝君らしいね。それなら俺にこんなこと聞かなくても、思うままにやっていればいいんじゃないのかなー。俺はそれに付き添って、帝君をサポートしていくからさ』
大爆笑とともに返ってきた答えは、どこまでも俺に優しかった。
「ありがとうな。……これからもよろしく」
『言われなくても、こっちから勝手によろしくするからねー。嫌がっても、ずっと一緒だよー』
電話を切ったあと、俺はまた大きく息を吐き、知らず知らずあふれていた涙を指で拭った。
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