136:話をしてみましょうか
弟に相談し、それから自分でも色々と考えた結果、美羽達に少しだけ話をしようと決めた。
このまま演技を続けていても、申し訳ない気持ちになって、上手く笑えなくなりそうだった。
でも顔と顔を合わせては無理だと思い、それぞれに電話をして話すことにした。
「まあ、こういう時は美羽からっていうのが決まっているよね」
スマホを前にし、俺は自然と正座をすると、見覚えのある番号の並びに触れる。
コール音が数回鳴り、そして一瞬の静寂。
『……帝? なにかあったんですか?』
俺が電話をすることが珍しいからか、電話の向こうの美羽の声は、訝しげなものだった。
「悪い。緊急事態じゃないんだが、時間は大丈夫か?」
『ええ。少し待ってください…………どうしたの?』
誰かと一緒にいたようで、断りの声が遠くに聞こえ、そして移動した美羽の口調はくだけたものに変わっていた。
「忙しいところだったのなら、あとでも良かったけど。本当に大丈夫なのか?」
『そこまで重要じゃなかったから。それよりも帝の話の方が大事』
「ありがとう」
『いいよ。それよりもどうしたの? なんかいつもと違うけど。困ったことでもあった?』
さすが長年一緒にいるだけあって、俺のちょっとの違いにも気づかれてしまった。
緊張しながら、深呼吸を何度もすると、早速本題に入る。
「……高校に入ってから、俺の態度がおかしいことには気づいていたよね」
『う、うん。でもそれは、そういう性格になった……わけじゃないみたいだね。この感じだと』
「そうなんだ。あの性格の方が、生徒会長になりやすいかと思って、わざとああしていた。……だから、だましていたんだ。本当にごめん……」
俺の謝罪に、しばらくの間美羽からの返事は無かった。
呆れられたのかもしれない。
そんな不安から、電話を切りそうになったけど、その前に美羽の大きなため息が聞こえてきた。
『もしかして、このために電話してきたの?』
「えっと。まあ、そうだけど。だ、駄目だった?」
『駄目というか。僕がそこで責めると思っていたのだとしたら、悲しいかな。どんな帝だって帝だし、だましていたなんて思うわけないでしょ』
それは弟の言葉と、よく似ていた。
『この感じだと、他の人にも連絡するつもり。たぶん、というか絶対に僕と同じことを言うはずだよ。時間の無駄だって』
「……ん。そうかな」
『そうだって。でも、もしも心配なら電話してみてもいいかもね。みんなに笑い飛ばされるだろうけど』
俺の中に言葉が染みこんでいき、胸の中がポカポカと温かくなっていく。
「電話してみる。ありがとう。なんか嬉しい」
『帝が安心するなら、何度だっていつだって言うよ。俺様な帝だって、今の帝だって、どっちも大事な帝だから。好きなようにふるまって。僕達はそれについていくだけだからさ』
「ん。それじゃあ、また」
電話を切っても寂しさを感じることなく、俺は口元が緩んでしまう。
「次は……匠かな」
美羽の言葉通り、きっと帰ってくる言葉は似たようなものなのだろう。
でも俺は、本人の口から直接聞きたくて、次は匠の番号にかける。
『……帝か? 何かあったのか?』
「突然悪い。急用じゃないんだけど、今電話しても大丈夫か?」
『ああ、構わねえけど。どうした?』
美羽と同じように、突然の電話に匠の声は緊張していた。
俺はそれに対して笑いをこぼし、また話に入る。
「俺、高校に入ってから性格変わったよな。でもそれは、こっちの方が楽だと思ったからだった。だから、だましてごめんな」
大丈夫だとは思っていても、少しだけ声が震えてしまった。
でもそんな俺の気持ちを吹き飛ばすように、匠が大きな声で笑いだす。
『大事な話かと思ったらそんな話か! 全く驚かせるんじゃねえよ』
「そんな話って。俺にとっては大事なことだけど」
『それじゃあ、気にすんな。俺はだまされたと思っていねえし、あれはあれで可愛かったからな』
「可愛いって……何であれを可愛いと思えるんだよ。みんな目がおかしいのか?」
『みんなって、他に誰が可愛いって言ったんだ?』
何故か怒った匠に、俺は不思議に思いながら名前を口にする。
「誰って正嗣だよ。他にいるわけないでしょ」
『ああ、ブラコンだからな』
名前を聞けば怒りを鎮めて、そして納得したように相槌を打つ。
「ありがとう。おかげで元気が出た。これからも同じようにふるまうし、嫌な言葉とか態度をとるかもしれないけど、嫌いにならないでほしい」
『当たり前だろ。帝を嫌いになることなんか、一生ありえない。だから安心して、好きなようにふるまえ』
「……うん。本当にありがとう。じゃあ、また」
匠も俺を責めることなく、むしろ励ましてくれた。
さらに俺の心は温かくなり、そっと胸を押さえる。
「好きなようにか……いいのかな。とりあえず次は……」
こうなったら、全員に電話をかけよう。
そう決めた俺は、次にかける相手の名前をスマホから探そうとする。
「……この場合は、どっちにかけるのが正解なんだ?」
西園寺朝陽、西園寺夕陽と名前が並んでいて、どっちを先に電話した方が良いのか、どっちにもかけるべきなのか迷ってしまった。
数秒だけ迷って、結局目を閉じて画面を押した。
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