131:お見合いぶっ壊し大作戦……?
障子を前にして、俺は深呼吸を何度もすると、声をかける。
「すみません。失礼いたします」
向こう側の声が聞こえてこないので不思議に思ったが、そんなに騒ぐ場でも無いだろうから、当たり前のことなのか。
「どうぞ。入ってよ」
彗さんの声が聞こえてきて、入ることを許可されたので、俺はそっと取っ手に手をかけると、静かに横に引いた。
よくあるお見合いの場で見たことのあるような、大きな机を挟んで向かい合う人達の姿。
彗さんがいる方に、座っている男女は見覚えのある顔だ。
伊佐木家の現当主と、その妻。つまり圭の両親ということになる。
そして、その向かい側にいる着物の綺麗な女性と、その脇にいる中年の女性が今回の相手だろう。
俺の登場に驚いている女性は、本当に美人で、巻き込んでしまったことが申し訳なくなる。
これから俺がする行動が、彼女のトラウマにならなければいいのだけど。
運が悪かったと切り替えてくれればいいが、お嬢様といった感じなので難しいかもしれない。
「えっと、あなたは……?」
「突然お邪魔してしまい、すみません。ただ私は……」
「この人が例の女性だよ」
俺が彗さんの恋人だと言う前に、その本人に邪魔された。
例の女性?
それは、どういう意味なのだろうか。
「ああ! この方がそうなのか!」
しかも何故か、好意的に受け入れられそうな気配を感じる。
何かがおかしい。
俺は嫌な感じがして、一旦立て直すために離れようとした。
「そうなんだよ。どうぞ座って座って」
でも先回りされてしまい、その場に残ることを余儀なくされる。
「……し、つれいします」
このまま逃げる手筈だったはずなので、ボロが出てしまいそうだ。
逃げ場が無くなってしまったが、それでも表情には出さずに彗さんの隣に座った。
「えっと、彗さん?」
計画はどうなったのかという意味を込めて、俺はそっと服の裾を引っ張り、非難の意味を込めて彗さんにだけ見えるように睨む。
「ごめんごめん。今ちょうど、君の話をしていたところなんだ」
「わ、私の話ですか? どんなのでしょう」
「そう。君と圭についての関係性についてね」
「……私と、圭さんについて?」
どういうことだ。
今回の件について、圭は全く関係ないはずなのに。
どうして今、その名前が出てくる?
「ど、どういうことでしょうか」
俺は眉間にしわを寄せてしまい、慌てて取り繕った。
「君は、圭ととても親しいだろう。学校での様子とかを聞きたいんだ」
「えっと……何を……私は……」
ここで認めてしまえば、俺が女装していることがバレてしまう。
この状況では、もうバレてしまっているとも思うけど、プライドがそれを認めたくないと拒否していた。
「もう分かっていると思うけど、だましてごめんね。でもこうでもしないと、こうやって話すことが出来ないと思ったからさ」
「……なんでこんな回りくどい真似をして、わざわざ話し合いの場を設けたんでしょうか?」
俺は女性らしく振舞うのを止めて、ウィッグを外そうとしたが、それは止められてしまった。
「似合っているから、そのままでいいんじゃない」
これ以上、俺を辱める気か。
そう言いたかったが、他の人達のことが気になって何も言えなかった。
彗さんの両親はいいとして、相手の女性だと思っていたこの人達はどういう立ち位置なのだろうか。
俺の視線には気がついているはずなのに、説明を全くしてくれない。
視線が合っても、微笑むだけだ。
「こういう風に集めるしか無かったのは、公に集めようとすれば、少し面倒な事態になってしまうから。まあ、女装は俺の趣味だけどね」
「趣味」
「そう。とても似合っているよ」
ものすごく殴りたくなったけど、ここで殴ったら捕まるには俺だから、何とか我慢する。
「…………分かった。こんな風に集めるしかなかったのは分かったから、どうしてそこまでして圭の話を聞こうと思った?」
相手がまだ俺にとって敵なのか判断できないから、態度が大きくなってしまうが、誰も気にしていないようなので、このまま話を続ける。
「騙し討ちしたのは悪いと思っているよ。でもこちらとしても、必死になる事情があったんだ」
「事情ねえ……その事情というのは教えてもらえるのか?」
「実は圭から連絡があったんだ。家から出たいってね」
「……は」
家から出たいというのは、言葉通りではなく、伊佐木家から出るという意味なのか。
いくら跡継ぎになれないとはいえ、家を出る理由はあるのだろうか。
「何でだ? ……跡継ぎになれないからか?」
「こっちも色々聞いたんだけどね。跡継ぎには興味ないって。別に後継になれないから家を出るわけじゃないって言われたんだ」
「それじゃあ何で」
「君がそれを言う?」
俺のその言葉に、彗さんが冷たい声で返した。
さらに冷たい視線を向けられて、少し震えてしまう。
「何度聞いても答えてくれなかったけどね。しつこく何度も何度も聞いた時に、ポツリと君の名前を口にしたんだ。それ以上は何も言わないけど。君が原因ということは、はっきりと分かった」
その態度の冷たさに、俺は何の身に覚えもないけど、謝罪を口にしようとしてしまった。
「圭に何をした?」
完全に俺が悪いと決めつけている、そんな顔だった。
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