130:お見合いぶっ壊し大作戦





 彗さん立案の、お見合いぶっ壊し大作戦。

 本当に大丈夫なのかと不安になったが、案外その場になれば何とか出来そうな気がしてきた。


「まっさか、本当にやってくれるとはね。しかも意外とノリノリ」


「こういうのは楽しんだもん勝ちだ。恥ずかしがる方が駄目なんだよ」


 ここまでお膳たてをしたくせに、少し引き気味なので、俺はニッコリと笑った。


「どうだ、似合うだろ」


「似合わないとか言いきれない感じが凄い。むしろ慣れてきたのか、アリなのかなって思ってきた。美形って凄い」


「まあ、俺だからな」


 胸までの長さの髪をかきあげれば、ため息を吐かれた。


「俺が頼んだからなんだけど、凄いものを誕生させてしまった気がする」


「それはいい意味でだろ?」


「まあ、どちらかというとね」


 くるりと一回転すれば、ひらりとスカートのすそがひるがえる。

 初めて着てみたけど、足元が心もとない。

 風が吹いたら、絶対にパンツが見えてしまいそうだ。


 でも、このくるくるした感じは面白い。

 体を何回かひねってスカートで遊んでいると、彗さんがくすくすと笑いだす。


「そうしていると可愛く見えるね。今日は上手くいきそうだ」


「当たり前だろう。俺を誰だと思っているんだ」


「えー。俺様何様帝様だっけ?」


「はっ、そうだな」


 腰に手を当てて偉そうに言うけど、格好が格好なだけに様になっていない。


 肩までの髪はふわふわに巻かれていて、白く清楚なシャツワンピース。

 肩には喉ぼとけと肩幅のいかつさを隠すために、ストールを巻いている。

 足も手も身長も大きいのだけど、このぐらいは許容範囲だと思ってもらおう。


 ここまでして、何とか身長の大きな女性に見える。

 顔はお世辞に言っても可愛らしいものではなかったから、女性らしく見えるか心配だったけど、まあ何とか見れる容姿にはなった。

 でもそんな心配を見せるべきではないと思うから、あえて自信満々な態度をとる。


「それじゃあ、もう一度確認をしようか」


「お見合いの場には遅れて行く。そこで、結婚を考えたお付き合いをしていると言えばいいんだろう」


「それでオッケーだね」


 今回の作戦はというと、とてもシンプルに俺が恋人のふりをするというものである。


 何故、彗さんの知り合いの女性に頼まなかったのか。

 それには、海よりも深いわけがあった。

 実際、彗さんは女性に頼もうとした。

 でもその女性に逆に結婚を迫られてしまい、何とか断ったのだけど、もう他の女性に頼むことは出来なくなってしまった。


 そういうわけで何を狂ったのか、女性のふりをしてもらって何とかしようという考えに至った。

 それに俺が選ばれてしまったのだから、見る目があるのかないのか微妙なところだ。


 まあ、困っている人を助けるのは苦ではない。

 彗さんに恩を売っておくのも、これから先必要になるかもしれないから、やっておいて損は無いだろう。

 こんな姿は、誰にも見せられはしないけど。


 さすがに女装している姿を見られたら、キャラ崩壊だし、恥ずかしくてしばらくは立ち直れなさそうだ。

 だから彗さんに頼み込んで、お見合いの場には圭を呼ぶのは止めてもらった。


「もう一度聞くが、お見合いを壊して本当にいいのか?」


 こんなふざけた作戦ではあるが、お見合いをしようとしている相手の女性にとっては、人生が変わってしまうかもしれない。

 相手の女性のことを思ったら、可哀想である。


「……うん。相手の人には悪いと思うけどね。今のこの状態で結婚する方が悪いから、今回はとことんぶっ壊しちゃってよ」


 確認のために何度も聞いたことを尋ねれば、真面目な顔になって頷いた。

 最終確認が取れたのなら、もう俺は突き進むのみだ。

 俺は鏡を確認して、服装や髪の乱れをチェックすると、最後に真っ赤な口紅を引いて笑った。


「それじゃあ、遠慮せずにぶち壊す」







 お見合いの場は、おあつらえ向きに老舗の旅館を貸し切りにして行われるようだ。

 スタンバイしている最中、暇な時間が出来てしまったので、手入れの行き届いた庭を眺めながら、聞こえないように息を吐く。


 彗さんが従業員の人に説明をしてくれたおかげで、ここに俺がいても誰も何も気にしない。

 こんなに大きい女性がいて、特に表情を出さないのは、さすがプロである。


 俺が突入するタイミングは、彗さんから連絡があったら、すぐにだ。

 だから近い位置で待っているのだけど、向こうの話し声は特に聞こえてこない。

 聞こえたら気まずくなってしまうので、その方がありがたいのだけど。


「あーあー。こんな感じか?」


 俺は喉に手を当てて、裏声を出す練習をする。

 第三者がいないので判断は難しいが、ハスキーボイスの女性ぐらいにはなっただろう。

 準備は完了したので、後は合図を待つだけだ。


「冷静に考えると、上手くいくわけないよな」


 どう考えたって男だとバレるし、馬鹿にしているのかと謝罪を要求されたら、俺が一ノ宮帝だということがバレてしまう。


 もしもそうなったら色々と面倒なので、その時は全力で逃げよう。

 そう決めて俺は震えるスマホを止めて、ゆっくりと立ち上がった。




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