129:お見合いしましょう、そうしましょう




 お嫁さんにする発言は、本気ではなかった。

 当たり前のことなのだが、かといって冗談かと思えば、そうとも言え無い事情があるらしい。


「兄ちゃんが、お見合いねえ」


「そうなんだよ。結婚すれば落ち着くだろうからって、無理やりセッティングされたの! こっちはクック諸島でのんびりしていたのに呼び出されたかと思えば、こんなくだらない話だったなんて。帰ってこなければ良かった」


「少しは落ち着いた方がいいと思うし、結婚しちゃえばー」


「圭まで、他人事だと思って」


「実際他人事だしい……と言いたいところだけど、何でそこに帝君を巻き込もうとしているのかなあ?」


 生徒会室不審者侵入事件は、俺と圭の努力によって、何とか警察沙汰になることなく収められた。

 彗さんが全く弁解をしないせいでこじれかけたが、それでも最終的にはパスポートの名前で圭の兄だと納得してもらえた。




 そして現在は、俺と圭と彗さんの3人で、学園にある応接室を借りて話をしている。


 美羽達も話をしたいと言ったが、全員で圧をかけそうな勢いがあったのと、圭がそれを拒んだから、3人という形で納得してもらった。


 そこで話されたのが、彗さんにセッティングされたお見合いだった。

 長らく世界中を好き勝手に旅している彗さんに対して、家族の人の堪忍袋の緒がとうとう切れてしまったらしい。


 結婚でもして早く落ち着け。

 父危篤の報せに戻ってきた彗さんにかけられたのは、危篤なはずの父親からのそんな言葉。

 逃亡しようとしても、その行動は読まれていて、先回りされて阻止されてしまった。


 でもあくまで結婚したくない彗さんは、なんとか結婚を回避しようと、まずは兄である円さんを頼ったらしい。

 返ってきた言葉は、たった一言。

 自業自得。


 兄にも頼ることは出来ない。

 そう判断し、最後に頼った先が圭だったというわけだ。



 それなのに何故、俺が巻き込まれてしまったのか。


「なーんか、ビビビって来ちゃったんだよね。元々、一ノ宮君の噂は聞いていたんだけど、まさかここまでとは思わなかったから」


「噂って?」


「あんな風に生徒会役員を決めるのでさえ異例だったのに、まさかどちらのランキングも1位をとって生徒会長になるなんて、噂にならない方がおかしいでしょ」


 それもそうか。

 感覚が麻痺していたけど、俺が生徒会長になった経緯は、どう考えてもおかしかった。

 認められたことが前代未聞で、噂になるのは当然だ。

 この学園に毒されて、完全に麻痺していたみたいである。


「そんなに可愛い子なのかと思えば、イケメンと言うよりも美形って言葉が似合うワイルド系だからさ。俺様なのもいいよね。……そそる」


「そそらないでくださーい。マジで追い出すよ? というか不審者として、通報していい?」


 彗さんがいるせいで、圭はいつもの緩さをどこへやら、鋭いツッコミを入れている。


「そんなに怒らなくても。俺だって結婚を一生したくないわけじゃなくて、今無理やりしかも決められた人としたくないだけだよ」


「そうは言ってもねえ。父さんだって母さんだって、心配して言っているんだよ。兄ちゃん、すっごくいい加減だから」


「自由に生きているだけ。それに次男坊で、家は円が継ぐって確定しているんだから、何をしたっていいと思わない? 自分で稼いでいるし、迷惑かけるつもりは無いのに」


「まあ、そうなんだけど」


「だからまずはお見合いを阻止するために、一ノ宮君の助けが必要なんだよ」


「そこが納得出来ないんだよね。さっき兄ちゃん、なんて言った?」


「え。お嫁さんにするって」


「完全におかしいよね! なんだお嫁さんんにするって!」


「言葉通りの意味なんだけど?」


 怒っている圭と、意味が分からないと言った顔をしている彗さん。

 衝撃から抜けきれなかったのと、2人の邪魔をしてはならないと傍観していたが、そろそろ話に入らなくては。


「具体的に何をさせようとしているんだ?」


「帝君!?」


「お。一ノ宮君の方が話が早そうだね」


「どうせ。本気で嫁にするつもりはないんだろう。そのお見合いとやらをぶち壊すために、俺に何かしてもらおうとしている。その何かを教えろ」


 彗さんに真剣さがない時点で、俺に好意を持っている訳では無いのはすぐに分かった。

 利用して、お見合いを回避しようとしている。


「その何かと、報酬によって引き受けるのもやぶさかじゃねえ」


「帝君!?」


 圭の兄ということもあるし、わざわざ俺に頼んだというのも面白い。

 困っているのは事実だろうから、引き受けてもいいかもしれない。


「一之宮君は、本当にいい子だね。うちの圭にも見習わせたいぐらい。俺様だけど優しいんだね。うん、まあ、結構興味湧いてきたかも」


「絶対に駄目! 帝君は駄目! 兄ちゃんはもう見るな!」


 ギャーギャーと騒ぎ始めた圭を無視して、彗さんは俺に近づくと耳打ちしてきた。


「報酬は、何でも1つ言うことを聞くのはどうかな? それでやって欲しいのはね……」


「おお、…………はあ!? ………………あー、くそ分かったよ」


 その内容に俺は目を見開き、そして理解すると、考えに考えて了承した。






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