124:自信はつきましたので、許してください




 あんなにも一気に好意を示されたら、あふれるのは当たり前だった。

 キャパシティオーバーで倒れてから目を覚ますと、そこには心配そうに覗き込む7人の顔があった。


「お、やっと目を覚ました」


「みかみかー!」


「起きて良かったー!」


「大丈夫、帝。目を閉じている顔も可愛くて素敵だけど、俺としては目を覚ました時の方が可愛すぎて幸せすぎるから、ずっと目を開けていて欲しいな」


 心配してくれているのは分かるけど、目覚めにしては刺激が強すぎた。


「顔を近付けるな……近い」


 俺はそっぽを向くが、顔が熱くなるのは止められない。

 先程の言葉や感触を思い出してしまい、ゾワゾワと全身に電気が流れた。


「照れちゃって可愛いー。意識してくれたんだー」


「逆に言うと、あれぐらいしないと伝わらないぐらい鈍感というわけですけどね」


「……伝わって、良かったけど……恥ずかしいな……」


 一番近かった仁王頭が頬を触れてきて、そして微笑んでくる。

 その笑顔のとろけ具合に、俺もさすがに分かってしまった。

 みんな俺に対して好意を抱いてくれている。


 それが友情であれ、親愛であれ、何であれ、今のところは離れる心配はしなくても大丈夫だろう。

 そういうことを言ったら、また怒られそうな気がするので、口には出さなかったが、もしかしたら伝わってしまったのか。


「もしも、またくだらないことを考えたら……分かっていますよね。ふふ」


 その笑いが怖すぎて、俺は頭を何度も縦に振った。

 あれをもう一度するのは、絶対に無理だ。今度は気絶だけではすまなくなってしまう。


「それならいいですけど」


 必死に頷いていれば、美羽はそれ以上は意地悪をする気は無くなったようだ。


「もう分かった。分かったから、これ以上は勘弁してくれ」


 真っ赤になった顔は、しばらくおさまりそうにない。

 俺は顔に手を押し当てて、赤くなった頬を隠す。


 生暖かい視線をむけられたが、相手にするだけ俺の損なので、見ないふりをしておいた。



 こうしてしばらく、俺はみんなから口説き文句のような言葉を、暇さえあれば言われるようになった。

 俺の反応を楽しんでいたようで、慣れてきて反応が薄くなったら、つまらないといってやらなくなった。


 俺が言うのもなんだけど、性格のひん曲がった人達である。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「あ? 何て言った? 今」


『旦那様が呼んでおります。すぐに家に戻ってくるようにと』


「なんで俺が……分かった分かった。どうせ拒否は出来ないんだろう。いつ行けばいい?」


『明日、と言いたいところでしたが、実は事態は急を要しておりまして……今、門の前に来ております』


「まっ!? 随分と急だなあ。でもそれぐらい状況は緊急を要しているってことなんだな。今から行く」


『連絡はしておりますので、何も用意せずにおいでくださいませ』


「準備が良いな。まあ、助かる。今から行くから待っていてくれ」


 生徒会室で仕事中、電話が鳴った。

 出てみると御手洗で、用件はすぐに家に戻ってくるようにとのことだった。

 父親が言うのだから、重要な用件なのだろう。


「すまん。家の用事で、今から出る」


「そうでしたか。仕事の方はこちらで片づけておきますので、遠慮なく行ってきてください」


「ありがとう。助かる!」


 近くにいた美羽に事情を説明すれば、すぐに事態を察してくれて、快く見送ってくれる。

 俺は言われたとおりに何も持たずに立つと、そのまま部屋から出た。





「お、迎えは御手洗じゃないのか」


「はい。御手洗は、屋敷で待っております。旦那様も、正嗣お坊ちゃまも」


「そうか。俺は少し寝る。ついたら起こしてくれ」


「かしこまりました」


 電話をしてきたから、御手洗が迎えに来てくれると思っていたのに、そこには別の使用人の姿があった。

 少しだけがっかりしてしまったのを隠すように、車に乗り込むとすぐに目を閉じた。

 そうすればわざわざ使用人も話しかけてこないので、俺は目を閉じたまま車に揺れられた。


 思っていたよりも疲労が溜まっていたらしく、いつしか本当に眠ってしまっていた。





「お坊ちゃま、起きてください。間抜け面をこれ以上さらして、どうするおつもりですか」


「ん……ああ、はよ。もう家か」


「……だいぶお疲れのようですね。隈が出来ています」


「御手洗だ……久しぶり」


 そっと目元を触れる指が優しくて、俺はまどろみの中、その手にすがりよった。

 嬉しくて目を細めれば、深い深いため息を吐かれた。


「お久しぶりですね。旦那様がお待ちですので、早く起きてついてきてください」


「んん。悪い。今起きる」


 大きくあくびをすると、俺は車から降りて伸びをする。

 そして脇にいた御手洗の姿に、自然と笑みがこぼれた。


「何の用で呼び出したんだ? もしかして、とうとう再婚する人でも見つけたのか」


「それは、旦那様におっしゃらない方が良いですよ。少し困ったことになっておりまして。お坊ちゃまの力が、どうしても必要なんです」


「俺の力が必要なこと?」


 父親に解決できないことが、俺に出来るとも思えないが。

 そうは思ったけど、助けが必要とのことなので、出来ることはしようと覚悟を決めて、わが家へと入っていった。





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