120:思い通りにいかないことばかりです




 ある程度の引き継ぎは終わり、雅楽代元会長と四斗辺風紀委員長は帰っていった。


「そういえば、何故まだここに残っているのですか? 匠」


「四斗辺先輩に言われたんだよ。風紀は手が足りているから、こっちを手伝ってやれって」


「そうか。それなら使えるものは使ってやるさ。ここにいる全員で、新入生歓迎会を成功させるぞ」


 もう仁王頭がいることとか、匠が手伝ってくれることとか、そんなささいなことはどこかに置いておこう。

 とりあえず今すべきことは、新入生歓迎会を成功させる。

 他のことは後で考えればいい。


「帝がそう言うのなら仕方ねえなあ。今回はよろしく」


「しょうがないから手伝わせてあげますよ」


「たっくんがいるなら、楽しいかもねー」


「代わりに色々しておいてー」


「俺のも俺のもー」


「それは駄目でしょ。どう考えても押し付けるのは良くないし、みんなでやり遂げなくちゃ帝も悲しむよ。そんなの分かるじゃん。……いや、ここは俺が大活躍して好感度を上げればいいのでは……2人きりの生徒会……なにそれ天国」


「……そんなことさせない……みんなで頑張ろう……」


 それぞれ違った反応を見せて、一部を除きやる気を見せてくれたので、俺はその全員に見えるように笑いかける。


「まあ、頑張った奴には、ご褒美をやってもいいがな」


「それ本当!?」


「それならやるやるー!」


「しょうがないから、俺も頑張ってあげるよー」


「……全く現金な奴らだな」


 俺の言葉に、先程まで人に任せようとしていた朝陽、夕陽、圭はにわかにやる気を出した。

 分かりやすい姿に、美羽が呆れてため息を吐く。


 まあなにはどうであれ、やる気を出してくれたから、これから色々と楽に進めるようになるだろう。

 そう思っていた。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「それは絶対に認めねえ!」


 俺は今、1人で激しく拒否している。


「帝、どうしてそこまで頑なに拒むのですか」


「そうだよ。良い案じゃねえか」


「もうこれ以上、いい案を出すのは無理ー!」


 拒否するせいでブーイングがあがるけど、俺だって引けない理由があった。


「……なんで新入生歓迎会で鬼ごっこなんてしなくちゃいけないんだ……」


 新入生歓迎会で鬼ごっこをする。

 それは、物語に出てきたイベントだった。

 でも行われるのは、1年後の新入生歓迎会でである。


「楽しそうでいいじゃーん!」


 もし今年、鬼ごっこを行ってしまったら、来年は開催出来なくなってしまう。

 そうなると、物語がまた変わる可能性がある。


「絶対に駄目だ」


 仁王頭が生徒会に入るというイレギュラーが起こった中、直近でこれ以上イレギュラーなことは起こしたくない。

 だから反対しているのだけど。


 たくさんの案が出た後のことだったせいで、もうみんな鬼ごっこ以外に考えられなくなってしまっている。


「帝の言うことは全部賛成派の俺だけど、理由も言わずに反対するのは、いつもの帝らしくないよね。もしかして、この前小悪魔だって言ったから、小悪魔になるように性格を変えているの? そんな帝も可愛いけど、理由ぐらいは教えて欲しい。理由を聞けば納得して、付き従うだけだからさ」


「……理由は言えねえ」


 本当は来年開催されるはずだから、今年は別のものにしたい。

 そんな理由を言えば、頭がおかしいと思われてしまう。


「……それは、さすがに、横暴だ……どうした? ……帝……?」


「何でもねえよ。気分じゃねえだけだ」


 自分でも分かっている。

 言っていることが無茶苦茶だって。

 それでも、俺は認めたくなかったのだけど。


「帝、いい加減にしなさい」


 頑なな俺の態度にが漫画出来なくなったのか、美羽が静かな声でたしなめてきた。


「は? 何がだ」


「先程から、あなたの態度はおかしいです。理由も言わずに、駄目だとばかり。きちんとした理由を言っていただけなかったら、こちらだって納得できません」


「俺が嫌だって言っているんだから、違う案を出せばいいだろ。とにかく鬼ごっこは駄目だ。俺は絶対に認めねえ」


 美羽が俺に注意してくることなんて、そうそうない。

 だからそれぐらい、俺の態度は良くないのだろう。

 でも今更、止められなかった。


 勝手に動く口をそのままにし、俺は自分の意見を押し通そうとした。


「……いい加減にしなさいと言っているでしょう!」


 それは初めて聞く、美羽の俺に対する怒鳴り声だった。


「帝! あなたは何を焦っているのですか? 今までのあなたならば、こんな強行に何かを決めようとはしませんでした」


「う、るせえ……気分が乗らないんだよ」


「嘘をつかないでください! 何年あなたと一緒にいたと思っているんですか! あなたの嘘ぐらい、簡単に見破れますよ!」


 さすがに、ごまかされてくれないか。

 長年一緒にいるだけあって、もう勢いでは押し切れなくなってしまったようだ。


 それは嬉しいことでもあるし、同時にやりづらくなった。

 今まではうやむやにしていたことも、説明しなければ納得しない。


 でもなんだかんだといって、美羽は俺について従っていくものだと思っていたから、ショックが大きい。


「相談するまでは、私達は認めませんから。そのつもりで」


 そしてこうと決めた時の頑固さも知っているので、俺はどう説得したものかと頭を抱えるはめになった。




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